2018 Fiscal Year Research-status Report
銅錯体における光励起ダイナミクスの反応機構及び制御法の解明
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16KT0165
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
東 雅大 京都大学, 工学研究科, 准教授 (20611479)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2020-03-31
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Keywords | 光励起ダイナミクス / ビスジイミン銅(I)錯体 / 金(I)三量体錯体 / 溶媒効果 / 理論解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ビスジイミン銅(I)錯体と類似の光励起ダイナミクスとして、水溶液中の金(I)三量体錯体の光励起ダイナミクスの解析を行った。 金(I)三量体錯体は、基底状態は一重項で金イオン3つが折れ曲がり緩く結合した状態であるが、光励起すると系間交差が起きて三重項励起状態となり、3つの金イオンが直線状になり強く結合することが知られている。この光励起ダイナミクスについて、時間分解分光実験により解析が行われてきたが、主張が異なり議論が分かれている状況である。 そこで、本研究では理論計算により一重項基底状態と三重項励起状態の金(I)三量体錯体の構造を解析した。特に、周囲の水溶媒の影響に着目し、どの溶媒モデルでX線溶液散乱実験で得られた構造を再現可能か調べた。その結果、単純な分極連続体モデルや分子性液体の積分方程式で溶媒の平均的な描像を記述するモデルでは、一重項基底状態で緩く非対称に結合している実験構造を再現できないことが明らかになった。一方、溶質と溶媒の熱揺らぎの効果や溶媒の量子性を取り込んだ第一原理分子動力学シミュレーションでは、定性的に実験の傾向を再現した。また、一重項基底状態の金イオン間の結合長は、量子化学計算手法によっても大きく異なり、定量的な記述には分散力補正が必要であることも明らかになった。したがって、この金(I)三量体錯体の光励起による結合生成ダイナミクスを解析するためには、溶質と溶媒の両方の適切な記述が必要であると考えられる。 今後、より定量的に金(I)三量体錯体の構造を記述するために、さらに計算手法に対する依存性を詳細に調べる予定である。また、中間状態である一重項励起状態の解析も行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定になかった金(I)三量体錯体の解析を行ったが、これまで分からなかった溶媒の量子化学的な効果も明らかになった。今後、並行してビスジイミン銅(I)錯体の光励起ダイナミクスも行う予定であり、研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、得られたポテンシャル面の情報に基づいて、光励起ダイナミクスの分子動力学シミュレーションを行う予定である。
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Causes of Carryover |
今年度、学会での研究成果発表や研究打ち合わせのために見込んでいた旅費を大幅に下回った。この残額は、来年度の旅費として使用予定である。
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Research Products
(7 results)