Research Abstract |
本研究の目的は,もの作りのエキスパートである「わざ」職人が,どのような体験を経て当該領域の活動に専心し,卓越した技能を獲得するに至ったのかについて,質的に分析することで,今後の理数科系教育のあり方に関し,もの作りの観点から提言を行なうことにある。 そこで,平成17年度は理数科系領域と関わりの深い専門領域の「わざ」職人を,(1)現代の名工としてその技能と活動を高く評価された職人,及び(2)技能五輪世界大会でその技能を高く評価された若手職人,の基準により調査対象者として選出し,調査を実施した。協力が得られた対象者は,現代の名工12名,及び技能五輪選手6名の計18名であった。対象者の専門領域は,金属,機械,化学,建築,電気,電子,木工であった。調査は,対象者の所属する職場等において,深層的,自由回答的,半構造的インタビューにより実施し,また許可が得られた場合は実際の作業の現場の観察もあわせて実施した。 データ分析に関しては,次年度に予定されている調査が終了した後に行なうため,ここでは調査から得られた方向性についてまとめることとする。 対象者による体験の特徴として下記の3点があげられる。 第1に,幼少期から技能者初期に至るまでに,全ての対象者が,何かを自分で作り出す楽しさを体験している点があげられる。例えば,幼少期にナイフで木を削って何かを作ったり,機械を分解して新しいものを作り上げたりといった体験について報告している。そこでは,指導者の指導によらず,自分で試行錯誤しながら工夫を楽しんでいる。 第2に,エキスパートの技に触れる機会を得ている点である。環境の中にもの作りの卓越性を印象付ける情報が埋め込まれている。 第3に,ある時期に徹底した質の高い学びを体験している点である。「わざ」は極めて高い専門的知識と精密な技術が統合されて発揮される高度な技能であるため,反復学習を蓄積する中で達成されている。
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