2009 Fiscal Year Annual Research Report
ヘリコバクター・ピロリ感染を基盤とする胃がん発症機構とその制御
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17013001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
畠山 昌則 The University of Tokyo, 大学院・医学系研究科, 教授 (40189551)
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Keywords | ヘリコバクター・ピロリ / CagA / トランスジェニックマウス / 胃癌 / 血液癌 / 細菌性癌タンパク / SHP-2 / PAR1b / MARK2 |
Research Abstract |
CagAはPAR1b/MARK2と結合しそのキナーゼ活性を抑制することにより細胞極性を破壊する。CagAのC末側領域に存在するPAR1bとの結合配列(CM配列)は、発がん性が高いと考えられる東アジア型CagAならびに発がん性が低いと考えられる欧米型CagA分子種間でそのアミノ酸組成が有意に異なる。この構造多型が持つ生物学的意義を検討した結果、東アジア型CagA由来のCM配列は欧米型CagA由来のCM配列に比較して約2倍のPAR1b結合能を侍つことが明らかとなった。一方、欧米型CagAにおいてはCM配列が2個重複して存在するため、CagA分子全体で比較した場合、東アジア型CagAならびに欧米型CagA間でのPAR1b結合活性には大きな違いは認められなかった。この結果より、CM配列が示す多型はCagAの発がん活性には直接関連しないことが示された。ところで、欧米型CagAの一部にはCM配列を3個あるいは4個保有するバリアントが存在する。これらの分子は強力なPAR1b結合活性を示すことから、他のCagA分子に比べ著しく強い細胞極性破壊能を有する可能性が考えられた。 ヒト細胞ではPAR1bは他の3つの相同分子(PAR1a/MARK3,PAR1c/MARK1,PAR1d/MARK4)とPAR1ファミリーを構成し、これらPAR1ファミリー分子は協調して細胞極性制御を担うと考えられている。そこで、CagAがPAR1b以外のPARファミリーと相互作用する可能性を検討した。その結果、CagAはすべてのPAR1ファミリーと結合し、そのキナーゼ活性を抑制することにより細胞極性を破壊することが明らかとなった。さらに、CagAによるPAR1キナーゼの抑制は、その下流に位置する非筋ミオシンIIの機能を障害する結果、細胞が運動する際の細胞尾の退縮が正常に進まず、CagA発現細胞に特徴的な著しく伸張した形態変化(ハミングバード細胞)が誘導されることも明らかとなった。 細胞内に侵入したCagAはPAR1やSHP-2に代表される細胞内分子と相互作用するが、これまで宿主細胞内でのCagAタンパク質の安定性は解析されていなかった。そこで、胃上皮細胞内におけるCagAの生物学的半減期を検討した結果、チロシンリン酸化とは無関係にCagAのT1/2は約3時間であった。従って、宿主細胞内のシグナルを効果的に撹乱するためには、CagAはピロリ菌から標的胃上皮細胞に向けて持続的に打ち込まれる必要があるものと推察された。
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Research Products
(22 results)