Research Abstract |
1.々は昨年度KCuCl_3においてギャップが静水圧を加えると減少し,臨界圧力8.2kbarで反強磁性状態に相転移することを磁化測定と中性子散乱実験で発見した。この磁気量子相転移の機構を解明すべく,新たに中性子散乱用の高圧セルを開発し,KCuCl_3の圧力下中性子非弾性散乱を行い,明瞭な磁気励起の観測に成功した。得られた磁気励起の分散関係の圧力依存性から,明瞭な磁気励起のソフト化が観測された。また,分散関係の解析から,個々の交換相互作用の圧力依存性が求められた。本実験から,圧力によってダイマー内の交換相互作用が小さくなり,ダイマー間の交換相互作用が大きくなるために量子相転移が起こることが分かった。このような高圧下での中性子非弾性散乱の成功例は世界的に少なく,本成果は圧力下中性子非弾性散乱の新展開を切り開くものでもある。 2.スピンの大きさがS=1/2の1次元反強磁性体をKCuGaF_6の純良単結晶育成に成功した。この系は外部磁場を加えると,内部に交替磁場が発生する。そのため,この系は理論的には量子sine-Gordon模型で記述できる。KCuGaF_6の磁化測定と磁場中比熱測定を行い,これらが量子sine-Gordon模型が予言する結果と一致することを示した。また,この系に特徴的な素励起であるsolitonの質量の磁場依存性を求め,これが場の理論が予想する磁場の2/3乗に比例することを示した。更に,ESR測定を行い,素励起であるsolitonとbreatherを直接観測した。また,量子効果によって生ずる2次と3次のbreatherも明瞭に観測した。 3.2次元S=1/2三角格子反強磁性体ではフラストレーション効果と量子効果の相乗効果によって飽和磁化の1/3と2/3にプラトーが生ずることを我々は以前に発見したが,今年度は高磁場中での比熱測定によって,プラトー相への磁場誘起相転移を詳細に調べた。また,磁場と結晶軸のなす角度を変えながらも比熱測定を行い,角度に依存した複数の新しい秩序相の存在を確認した。
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