Research Abstract |
スピンギャップ磁性体TlCuCl_3の磁場誘起反強磁性相転移は,磁気励起マグノンのボース凝縮(BEC)として記述される。我々はSQUID磁束計及びFaraday法による磁束計でTlCuCl_3の磁化を70mKまでの極低温で詳細に測定して,マグノンの臨界密度と温度の関係を求め,相互作用定数を決定した。また,この相互作用定数と実際の分散関係を用いたBEC理論によって,相境界(転移温度と磁場の関係)が完全に再現できることを示した。更に,BBC理論では,相境界が低温でφ=3/2の冪乗則T(H)α(H-H_c)^<1/>φで表されると予言されているが,これを実験的に確認した。 我々は,KCuCl_3においてギャップが静水圧を加えると減少し,臨界圧力8.2kbarで反強磁性状態に相転移することを,磁化測定と中性子散乱実験で前年度迄に発見した。この磁気量子相転移は磁気励起のソフト化によって引き起されることが予測されている。昨年度から引き続き中性子透過率の高いmesoalite製高圧セルの開発を続け,これを用いてKCuCl_3の圧力下中性子非弾性散乱を行い,明瞭な磁気励起の観測に成功した。得られた磁気励起の分散関係の圧力依存性から,磁気励起のソフト化が確認された。また更に高圧セルを改良し,臨界圧力以上の圧力下で中性子非弾性散乱を行った。 我々が発掘したS=1/2の1次元反強磁性体KCuGaF_6は,gテンソルの交替と交替するジャロシンスキー・守谷相互作用のために,外部磁場を加えると,外部磁場に垂直な交替磁場が発生する。そのような系は量子sine-Gordon模型で記述できる。今年度はKCuGaF_6のESR測定を3He温度で行い,量子sine-Gordon模型が予言するsoliton励起,3次迄のbreather励起,及びbreather間の遷移を全て観測することに成功した。そしてこれらの素励起が定量的に量子sine-Gordon場理論と一致することを示した。 2次元S=1/2三角格子反強磁性体Cs_2CuBr_4ではフラストレーション効果と量子効果の相乗効果によって飽和磁化の1/3と2/3にプラトーが生ずることを我々は以前に発見したが,今年度は高磁場中で,磁場と結晶軸のなす角度を変えながら,磁化測定,比熱測定及びトルク測定を行い,角度に依存した複数の新しい秩序相の存在を確認した。 我々は新たにS=1/2籠目格子反強磁性体Cs_2Cu_3SnF_<12>とRb_2Cu_3SnF_<12>を合成し,その磁性を磁化測定で詳細に調べた。そしてにRb_2Cu_3SnF_<12>の基底状態が,理論が予言するスピンギャップをもつスピン1重項状態になることを実験的に初めて示した。
|