Research Abstract |
セルロース/水酸化ナトリウム水溶液から得たセルロースは世界で唯一の可食性セルロース成形体である。それはセルロースの溶解に,食品のプロセッシングに認められている水酸化ナトリウムしか必要としないからである。19年度は以下の実績を得た。 17年度に科学研究費補助金で購入した,アクセルリス社の科学計算ソフトオプションを使用した分子動力学計算で,セルロース/水酸化ナトリウム水溶液からのセルロース構造形成メカニズムを解明した。これは,CarbohydrateResearch誌に投稿中である。この検討の特徴は,構造形成の初期構造に相当する構造モデルを構築することである。これをコンピュータ内に設置し,その安定性や構造モデルの再編成を観察し,今までの実験結果とあわせて,構造形成機構を解明した。 この結果を踏まえ,食材として展開可能な,セルロースとセルロース以外の食用多糖とのブレンド物の検討をおこなった(セルロース単独であると食感が悪く実質的に食べられない)。そして,熱水中でも安定な,食感的に良好な可食性のフィルムを得ることに成功した。今までの可食性フィルムは熱水中で溶解するか,あるいは形態をとどめても著しく弾性率が落ちてしまうので,本研究で得た可食性フィルムは全く新しい特性を持つことになる。新しい食材加工法,惣菜製造法,食品包材などの展開が期待される。用途展開については昨年度のノンカロリーパンと合わせて検討中である。 セルロースクリーム(ノンカロリー油脂代替食品)については従来タイプのものでは,食後残余感があることなど本質的な問題があることが判明したが,セルロースの非晶化をともなう,食感的に全く問題のない新しい調製法を確立した。今後はその調製原理や基本構造の解明をめざすとともに,きわめて微粒化されているために,例えばその体内吸収の可能性も否定できないため,広範な安全性の確認も行う。
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