Research Abstract |
日本近代洋画史をラファエル,コランとの影響関係から調査し,再検討した。黒田清輝,久米桂一郎,岡田三郎助,和田英作らが,フランス留学時代にコランから学んだデッサン教育,歴史画教育を,画家の作品,言説などから解明した。とりわけ,黒田の仏文日記と書簡,久米の報告,岡田や和田の回想などから,アカデミー,コラロッシにおけるコランの教育の実態がある程度解明できたほか,画家たちの滞仏時代の作品(デッサン,模写,油彩画)の意味を,外光派自然主義の影響を受けた歴史画教育という観点から捉え直すこともできた。ただし,彼らの留学時代にはコラン以外にもピュヴィ,ド,シャヴァンヌやバスティン=ルパージュなど,師弟関係になくとも影響力の大きかった画家もいるので,コランだけに限定してフランス,アカデミスム絵画との関係を論じるわけにはいかないことも判明した。 さらに,コランの作品と日本人の弟子たちの作品を具体的に比較することで,彼らにとっていかにコランの存在が大きかつたのか理解できた。これは主題や様式双方において,従来漠然と言われている以上の重要性を持ち,東京美術学校の黒田の弟子たちにまでその影響は及んでいく。実際,コランの作品が日本で紹介され,黒田が模範的な作品を展示する中で行われた白馬会の展覧会には,風俗的な主題で女性像を中心に据え,適度な写実表現と紫色がかった色調を用いるコラン=黒田様式とでも呼ぶべきスタイルが顕著な形で表れているのである。この点については,ジャポニスムの画家コランに学んだ日本人画家たちという新たな視点も提出することができた。
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