Research Abstract |
加水分解酵素リパーゼはその高いエナンチオ選択性と幅広い基質適応性を活かして有機合成に幅広く活用されている.しかし,有機溶媒中では反応速度が遅く.簡単な操作で酵素の活性化が実現できれば.有機合成上の意義は極めて大きい.筆者らはイオン液体と酵素との高い親和性を期待し,各種ポリオキシエチレンアルキル硫酸イオンを対イオンに有するイミダゾリウム塩イオン液体を合成し,リパーゼPS-CのPH7.2リン酸緩衝液にイオン液体を加えて撹拝したのち凍結乾燥してイオン液体固定化リパーゼを調製した.この酵素を触媒に用いて各種の2級アルコールについて,ジイソプロピルエーテル溶媒中でアシルドナーに酢酸ビニルを用いて不斉アシル化反応を行った結果,イオン液体でコーティングした酵素ではエナンチオ選択性を保持したまま,市販リパーゼPS-Cに較べて顕著な反応加速されることがわかった.この活性化効果は基質アルコールに依存し,1(ナフタレン-2-イル)プロパノールではエナンチオ選択性を保持したまま最高1100倍の反応加速が観測され,一方,1(ナフタレン-2-イル)エタノールではエナンチオ選択性は高いものの反応加速効果はほとんど認められなかった.ポリオキシエチレンアルキル硫酸イオンのイミダゾリウム塩を各種合成し,これらのイオン液体でコーティングしたリパーゼPSについて反応性を調べた.その結果ポリオキシエチレン(10)セチル硫酸=1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムが最も優れた活性化効果を示すことがわかった. 次に,リパーゼ触媒アシル化反応に適したアルキル硫酸イミダゾリウム塩イオン液体の設計を検討した結果,2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチル硫酸=1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムが疎水性を示すイオン液体になることがわかった.特にリパーゼPS-Cに於いては,既存のいかなるイオン液体より反応速度,エナンチオ選択性共に良い結果を示した.また,この溶媒を用いてイオン液体コーティング酵素を利用することで酵素の再使用も実現した.さらに,イオン液体コーティングによる酵素活性化の起源を調べるため,反応速度が速く再現性の良い初速度を調べることのできる3-ヒドロキシペンタンニトリルの両エナンチオマーを合成し,(R)-体,(S)-体それぞれについて,市販PS-Cとイオン液体コーティングしたPSのアシル化のkineticsを調べた.
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