Research Abstract |
本研究は,走査型熱顕微鏡(SThM)上で,ナノスケール空間分解能と定量性を備えた局所熱伝導率計測法を開発することを目的とする.局所熱伝導率の計測には,カンチレバープローブを試料に接触させ,接触熱コンダクタンスと接触面積に関する情報を同時計測し,接点付近の試料熱伝導率を算出することが必要である.本研究では,接触熱コンダクタンスと接点温度を同時に計測する接点温度併用法の開発を行う。 本年度は,接点温度併用法で計測された値から熱伝導率を算出する方法を検討し,加熱,熱流計測,温度計測,接点温度計測機能を持つ多機能熱計測カンチレバーを製作し,SThM上で接点温度計測用に調整した試料に接触させ,両者間の熱流と接点温度を同時計測する実験を行った。 カンチレバー開発では,SiO_2を基盤とし,熱流計測用サーモパイル,温度計測用熱電対,プローブ加熱用ヒーター,接触熱電対用電極,熱流校正用ヒータを集積したプローブを作成した。 プローブの較正としては,既知温度試料とプローブ温度を一致させる能動温度計測法で温度計測用熱電対の起電力を較正し,先端部のヒーター発熱から熱流計測用サーモパイルの較正を行った。また,20nmの金膜が蒸着された試料と,プローブ上の白金をコートしたニッケル電極との間で構成された接触熱電対に対しても,参照接点との温度差に比例した熱起電力を確認し,較正を行った。以上より,既知試料に対する未知試料の熱伝導率比を算出するために必要な情報を全て定量的に計測可能となった. 実験では,ガラス基板とその上の金膜の熱伝導率比を計測する実験を行った。結果として,熱流信号には,試料材質の違いが如実に現れるのに対し,接触温度における違いが僅かしか計測されないことが分かった。この原因は,接触熱電対の接触部では金/白金/ニッケルの3層構造となり,白金/ニッケル接触界面温度が金/白金接触界面温度よりも僅かしか変化しないためであることが分かった。今後,接触部が金/ニッケルで構成されるようにプローブを改造し,提案する計測方法の実現性を明らかにする。
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