Research Abstract |
本研究はテンナンショウ属のマムシグサ節全体の系統解析により目本産のヒロバテンナンショウに近縁なグループからなる「ヒロハテンナンショウ群」を特定し,分子系統地理解析と倍数性解析を行い,この群の種分化と,過去の分布変遷について明らかにすることを目的としている。今年度は未調査地域での追加調査を行い,分布の現状を把握するとともに形態変異,倍数性解析,葉緑体DNA解析を行い,更にこれまでに調査した全集団について集中的に核DNA phytochrome B遺伝子の解析を行った。その結果以下の点を明らかにすることができた。 1.従来,ヒロハテンナンショウ群では,染色体2倍体が2集団しか知られていなかったが,新たに日本各地からの3集団で発見された。そのうち,岡山県で発見されたものは形態的に独特のもので,ナギヒロハテンナンショウと命名し,新種発表した。 2.葉緑体DNA解析では8種類のハプロタイプが識別され,その1つは2,3,4,5,6倍体に広く分布していることが明らかとなった。他のハプロタイプは分布域が局所的で,また異なる倍数レベルに共通したものはなく,染色体倍数化,地理的分化についての有効な情報が得られなかった。 3.phytochrome B遺伝子には11種類のアリルが識別され,そのうち主要な2種類のアリルが2,3,4,5,6倍体に広く分布していることが明らかとなった。他のアリルは分布域が極めて限られており,倍数体問,地域集団間の関係を議論することができなかった。 以上から,解析した遺伝的変異の情報からは,染色体倍数化や地理的分化の進化過程を探るために十分な情報が含まれていなかった。ヒロハテンナンショウ群については,個体レベルの遺伝的変異解析や倍数体群の遺伝的解析でも有効な手法とされるAFLP多型解析を行う必要であると考えられる。
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