2005 Fiscal Year Annual Research Report
脳海馬神経で合成される脳ステロイドは、シナプス可塑性を急性的に調節する
Project/Area Number |
17370053
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川戸 佳 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (50169736)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木本 哲也 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助手 (60292843)
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Keywords | 海馬 / エストラジオール / ニューロステロイド / 記憶学習 / シナプス / 神経成長 / スパイン / 長期抑圧 |
Research Abstract |
本年度は以下の進展を得る事に成功した。(1)脳内での性ステロイドの合成機構(1A)放射性ステロイドのラット海馬内での代謝を調べて、テストステロン→エストラジオール系とテストステロン→ジヒドロテストステロン→5α-アンドロスタンジオール系の女性・男性ホルモン合成経路を解析した:その結果「テストステロン→ジヒドロテストステロン→3a,5a-androstanediol」の代謝が起こることを発見した。この代謝は「テストステロン→エストラジオール」の代謝と比べて10倍ほど早かった。これにより、17β-HSD→5α-reductase系がラットの海馬に存在し機能していることがわかった。(1B)DHEA・テストステロン・エストラジオールなどの濃度を質量分析という高感度で厳密な分析法を用いて測定・確定した:DHEA・テストステロン・エストラジオール・ジヒドロテストステロンなどの濃度を質量分析した。エストラジオールの海馬内濃度は約5nMであり、血中濃度よりも有意に高かった。副腎・精巣などを除去しても、海馬内DHEA等の濃度は維持されていた。(1C)脳発達による合成酵素の変動を、mRNA解析で調べた。その結果17β-HSD,3β-HSD,P45017a,P450aromは新生児の海馬と比べて、大人の海馬では約半分になっていた。 (2)海馬スライス神経細胞では、電気生理学解析でエストラジオールが長期抑圧を強化するが、この分子論的基盤を解析した。(2A)エストロゲン受容体ERαがシナプス前細胞・後細胞のシナプス部位に局在することを、高度に精製したERα抗体RC-19、及び金コロイドを結合した2次抗体を用いた免疫電子顕微鏡観察によって発見した。以下の(2B)のようにエストラジオールはエストロゲン受容体を介して海馬スパインを変化させるので、エストラジオールはシナプス部位に存在するERαを介Lて海馬シナプスの形態・密度等を制御しているのではないかと考えられる。 (2B)エストラジオールを海馬スライスに短期的に作用させ、単一神経細胞に蛍光色素(Lucifier Yellow)をインジェクションしてスパインの形状を可視化し、スパインの形態につき解析を行った。その結果、エストラジオールを2時間作用させるだけで、CA1領域においてthinタイプのスパイーンが選択的に増加し、全スパイン密度が1.5倍に増大することを発見した。またCA3領域ではエストラジオールを2時間作用させると、スパイン密度が70%程度に減少した。これらの効果は部位に応じERα又はERβの阻害によって抑制された。(2C)エストロゲン受容体ERα,ERβのノックダウンマウスを用いて、海馬神経シナプス伝達の長期抑圧(long-term depression : LTD)への作用を検討した。その結果、エストラジオールはERβノックダウンマウスでLTDを強化するが、ERαノックダウンマウスではこの作用が無いことが判明した。 (3)以上の結果を総合すると、成獣ラットの脳海馬においてエストラジオールが合成され、これは急性的に神経シナプス伝達を変動させ、神経成長因子として機能することが示された。
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Research Products
(7 results)