Research Abstract |
小集団や北陸のブナ林で結実周期が長くなるメカニズムを,物質収支と近交弱勢,虫害からの捕食者飽食の観点から,明らかにしていくブナの豊凶のメカニズムを明らかにするために,以下の調査を行った。1.シードトラップによる開花数と落下原因ごとの落下消長。2.開花数,シイナ数,虫害数。3.結実のための投資パターン。2007年は,秩父演習林内ブナ,イヌブナ林(標高1,220m)で,2007年6月18〜19日にブナ20個体を選抜し,胸高部より1個体につき2方向から,計40本の成長錐コア試料(内径5mm)を採取した。試料は抽出処理後,小片に製材し,軟X線写真撮影を行い,その写真画像を元に年輪解析ソフトWinDENDROによって年輪幅及び年輪内最大密度値を測定した。その後,目視(スケルトンプロット法),統計的手法(COFECHAプログラム)によるクロスデイティングを行い,クロノロジーを作成した。そのクロノロジーを用い,年輪幅及び年輪内最大密度と結実(健全果数),気候要素と単相関分析を行った。気候データとして,調査地より約37kmの距離にある甲府市の月平均気温と月降水量(1895〜2006年),月日照時間(1898〜2006年)を用いた。結実データとして隣接する林分に設置された25個のリタートラップにて採集された1989〜2006年の健全果数を用いた。クロスデイティングの結果,16個体25コア試料について年代照合をすることが出来た。これを元に,1688〜2006年(318年間)の年輪幅クロノロジー及び年輪内最大密度クロノロジーを作成した。個体間平均相関係数は,年輪幅で0.29,年輪内最大密度で0.14であった。健全果数との関係において,年輪幅,年輪内最大密度共に有意な相関は認められなかった。しかし,結実のあった年の年輪幅及び年輪内最大密度は,前年より低くなる傾向がみられた。このことから,健全果数は肥大成長に多少は影響を与えていると考えられる。また,年輪幅,年輪内最大密度共に8-9月の降水量と負の相関関係にあった。また,有意な相関は認められなかったが,8-9月の日照時間と正の相関を示す傾向がみられた。このことから,降水そのものではなく,降水にともなう日照時間の減少が生育に対し負に働いていると考えられる。また,年輪幅,年輪内最大密度共に,冬期の気候要素と高い相関が認められたが,落葉期の気候要素と何故関係があるのかについては不明である。
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