Research Abstract |
1.Xenylla brevispinaをはじめ6種からなるスギ樹冠層のトビムシ群集は,土壌層からの移動により供給される種と樹上のみを利用する種によって構成され,種ごとに時間的・空間的に異なる分布様式を示していた.これらの結果をもとに,樹冠・土壌両層における節足動物群集の空間分布構造とその経時変化を,リターの動態と関連させつつ検討し,腐食連鎖系の中核をなすこれらの動物群が,樹上環境にも適応することによって,森林の垂直構造を効率的に利用していることを明らかにした. 2.オオタニワタリ(以下,シダ)着生の有無によるササラダニ群集の種数を比較し,シダの存在が森林全体のササラダニ群集の種多様性に及ぼす影響を明らかにした.イタジイの葉,枝および樹皮,林床のリターと土壌,シダの堆積リターと根部の7部位から得た211種,47995個体のササラダニを解析した結果,個体数密度はシダ根部,林床リターの順に高く,種多様度は林床リターと土壌が他の5環境よりも高かったが,シダ上2環境での種多様度は,林床や樹皮よりも低かった.判別分析の結果,森林全体のササラダニ群集は,樹冠,樹皮,林床の3グループに区分され,シダ上での種組成は,林床リター・土壌のそれと非常に類似していた.しかし,そのうち数種は,このシダのみを選択的に利用していた. 種数累積法による解析の結果,シダが着生しているイタジイ林全体のササラダニ種数は,着生していない場合よりも有意には多くならず,このシダの有無だけでは森林全体のササラダニ種数は大きく変化しなかった.これは,シダ内のササラダニのα多様性が低いこと,さらに,種組成が林床のそれと相似で,β多様性もまた低いことが原因であると考えられた.しかし,このシダの存在は,その環境に特異的な種の生息を可能にするため,森林全体の多様性維持機能において重要な役割を果たしている可能性があることを強く示唆した.
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