2006 Fiscal Year Annual Research Report
樹木木部柔細胞からの過冷却促進物質の同定とその応用に関する研究
Project/Area Number |
17380101
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藤川 清三 北海道大学, 大学院農学研究院, 教授 (50091492)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒川 圭太 北海道大学, 大学院農学研究院, 助教授 (00241381)
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Keywords | 深過冷却 / 樹木木部柔細胞 / フラボノール配糖体 / カツラ / 凍結制御剤 / HPLC / NMR |
Research Abstract |
樹木の木部柔細胞は-40℃以下の低温でも長期間、細胞内の水を液体状態で保つ深過冷却という特殊な氷点下温度への適応機構を示す。前年度の研究(科研補助1年目)により、樹木の木部(柔細胞)からメタノールまたはエタノールで抽出した粗抽出物は、水を過冷却させる何らかの物質(氷核形成阻害物質)を含むことを明らかにした。 本年度(科研補助2年目)は、これらの木部粗抽出物に含まれる過冷却促進物質の分離・精製・同定を行った。種々樹木から得られた粗抽出物中、-1.9℃という最大の過冷却活性を示したカツラを材料樹種として用いた。シリカゲルカラムで粗抽出物を酢酸エチル水溶液で分離して、活性の強かった酢酸エチル吸着側の成分を20のフラクションに分け、各フラクションの過冷却活性をドロップレット凍結法で測定した。この結果、2〜3の画分を除き、すべての画分に氷核形成阻害活性があることを明らかにした。このうちの一つの画分(画分10)は-5℃という最大の過冷却活性を示したので、この画分のみを対象として、含まれる物質の同定を行った。HPLCにより蛍光吸収を示す4つのピークが得られ、各ピークはいずれも過冷却活性を示した。質量分析、NMR分析により物質の同定を行ったところ、これらはいずれもフラボノール配糖体であり、ケルセチン-3-O-グルコシドは-2.8℃、ケンフェロール-7-O-グルコシドは-9.0℃、8-メトキシケンフェロール-3-O-グルコシドは-3.4℃、そしてケンフェノール-3-O-グルコシドは-4.0℃の過冷却促進効果を持つことを明らかにした。 フラボノール配糖体が過冷却活性をもつという事実は新規の知見であるとともに、これらのフラボノール配糖体、特にケンフェロール-7-O-グルコシドが示す過冷却活性はこれまでに知られているすべての過冷却促進物質中で最大の活性をもつものであった。このため、樹木の木部柔細胞が示す深過冷却には、非常に活性の高い過冷却促進(氷核形成阻害)物質が関与するという新知見が得られた。過冷却を促進するフラボノール配糖体は、凍結制御剤として様々な産業分野での応用の可能性が考えられるため、次年度(科研補助最終年度)にはこれらの物質による「凍らない水」の応用の可能性も検討する予定である。
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Research Products
(6 results)