Research Abstract |
「人間の安全保障」は,個々の人間は暴力/紛争と,適切な保健サービスの利用、就学、就業、移動など,身近な欠乏から護られるべきとする概念でだが,世界人権宣言など,古くから理念の集約とする意見もある。しかし,本理念が新たに必要になったのは,近年,多発する地域武力紛争(Complex Humanitarian Emergency,CHE)や国際武力介入,併発するテロ,巨大自然災害、新たな感染症,格差や貧困など,現在の地球上の人間の安全を脅かすものは,これまでの「国家安全保障」の範躊にはなく,改めて個々人の安全が問われているからといえる。 一方,世界で最大多数を占める保健医療者として,人々の安全における看護者の役割は明確でない。本研究では,わが国の看護教育をふくめ,類似の概念があったかどうかを検討し,近隣諸国における看護およびその教育での扱いを調査してきた。 これまで,わが国および近隣諸国の保健医療面,特に看護者に「人間の安全保障」の概念があるかどうかを調査したが,明確な認識があるとの確証は得られなかった。アジア随一のドーナーでもあるわが国には,160を超える看護大学と数百看護専門学校があり,看護職養成施設数は充足している感があり,また,その多くで国際保健/看護を扱っているが,国内的にも国際的にも,「人間の安全保障」の概念が取り入れられているとは云い難い。近隣諸国の看護職は,なお,その社会的地位の確立がなされていない上,教育においても,技術的に終始していることが多く,理念,ことに「人間の安全保障」の概念すら明確に理解されていない。国際看護師協会(International Council of Nurses,ICN)の謳う看護者の役割とも矛盾しない保健面における「人間の安全保障」の実践に看護職者の関与が期待されることを,研究報告書としてまとめた。
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