Research Abstract |
本年度は,非血縁ヘルパーをともなう共同繁殖魚Chalinochromis brichardi(以下,カリノ)の長期継続観察のための基礎を確立した.すなわち,約80個体を含む調査区を設け,そのなかの各個体を識別し,その行動圏,サイズ,性について把握した.これらはそのまま調査区に戻しており,来年度以降も移動,死亡,成長などについて観察を継続する.今回設けた調査区では,カリノは雌雄ともに旧来の調査区のものより,サイズが大きく,それに伴い,β雄のサイズも大きく,一部は旧調査区のなわばり雄に匹敵するサイズのものも存在した.このことは,共同繁殖に参加する個体のサイズは相対的に決められていることを明白に示している.併せて,本年度および過去の標本のDNA解析から,α雄,β雄,雌は,いずれも非血縁であることが確認された。このような,非血縁個体からなる協同的一妻多夫は,鳥類などでは数種でしられるが,魚類でははじめての発見と言える. また,雌の雄による受精の操作の傍証を得るための,産卵巣の形状把握,産卵行動の野外観察も一定の成果をあげることが出来た.これらの成果から,カリノでは雌がα雄,β雄の受精の操作を行っていることはほぼ確かであるということが出来そうである.雌による受精の操作は,昆虫・鳥類で報告はあるものの,体外受精を行う動物でははじめての報告例となる. カリノの調査の他,雄に繁殖戦術多型の見られるカワスズメ科魚類Telmatochromis vittatus(以下,ビッタータス)で,寄生繁殖するスニーカー雄,パイレーツ雄,そしてなわばり雄での精子競争に伴う,精巣投資や精子の質の違いについて調査を行った.その結果,スニーカー雄の精子は寿命が有意に長く,またそのサイズも大きいことが明らかとなった.繁殖戦術の違いに応じた精子の質の違いの発見は,世界で二例目となる成果である.
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