Research Abstract |
本課題では日華植物区系に広域分布をする植物種を対象にして,分子系統地理学や染色体ゲノムの解析を行うことによって地理的な境界を探索し,ヒマラヤ造山運動が種分化様式にもたらした影響を調べた.キク科モミジバグマ属Ainsliaeaの分子系統では,(1)雲南省西北部から以西のヒマラヤ地域,(2)雲南省より東側から日本列島まで,(3)四川省の3系統群に分かれ,その分岐は第三紀末から第四紀初期にかけてであると推定された.すなわち,ヒマラヤの造山運動と雲南省西北部における三江併流地域(横断山脈)形成の時期と矛盾しないことが明らかになった.さらに中国東南部から台湾・南西諸島・日本列島にかけてのグループは第四紀後期に急速な種分化を遂げた単系統群であり,形態的には相互に大きく異なる反面で,遺伝的には未分化であることが特徴的であることが明らかになった.ドクダミ科ドクダミ(Houttuynia cordata)では、三江併流地域を中心にしてネパールから日本列島に至るまでの各地域集団間を研究対象にして,分子系統地理学的に解析するとともに,染色体数を解析した.ドクダミにはそれまで知られていなかった種内倍数性(2n=64,72,80,96,112,128)が多数あり,三江併流地域ではその多様性が高く,日華植物区系の東端にあたる台湾と日本では2n=96だけが,西端のネパールでは112だけが検出された.東アジア日華植物区系に広域分布する植物は,雲南省西部地域を境に東西に分化しており,また台湾・日本の島嶼系へ分布域が拡大する際には,中国大陸にある多様性の一部を持ち出す形で行われたと考えられる.葉緑体DNAを用いた分子系統地理学的解析は現在も継続中である.
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