Research Abstract |
平成17年度の研究により得られた成果は以下の通りである. 1.名詞隠喩や形容詞隠喩における意味解釈と表現効果の認知過程の解明 (1)「AはBだ」形式の隠喩,「AはBのようだ」,形式の直喩,および形容詞・名詞句による共感覚比喩(色彩語メタファー)に関する意味解釈,表現効果,および比喩特性に関するデータを心理実験等を通じて収集した. (2)潜在的意味分析(LSA)を用いて,隠喩および直喩の解釈を行う計算モデルを構築した.このモデルを用いて,隠喩理解に関して提案されている5つの理論(比較理論,カテゴリ化理論,慣習性理論,適切性理論,解釈多様性理論)のいずれが最も妥当なのかを検証した.シミュレーションの結果,我々が提案している解釈多様性理論(多様性が高い隠喩ではカテゴリ化による理解が行われるが,多様性が低い隠喩では比較による理解が行われる)が計算論的に最も適切であることを示した. 2.隠喩と直喩の選好に影響を与える要因の特定およびそれらの処理過程の解明 (1)さまざまな語の組み合わせに対して,隠喩形式と直喩形式のどちらが好ましいかの選好データ,および意味解釈やその他の特性データ(類似性,適切性,慣習性など)を心理実験を通じて収集した. (2)「喩辞・被喩辞間の解釈多様性が高いほど,隠喩形式が好まれ理解も容易になるが,解釈多様性が低くなると直喩形式が好まれるようになり,相対的に直喩の理解容易度が増す」という隠喩・直喩の選好に関する新たな理論を提案し,上記で収集されたデータからその妥当性を示した.さらに,解釈多様性理論が他の理論(慣習性理論,適切性理論)よりも心理学的に妥当であることも示した. 3.隠喩表現における隠喩の意味と文字通りの意味の処理過程の解明 (1)レカナティ(F.Recanati)の文字通りの意味に関する理論を基盤として,隠喩の意味が文字通りの意味に対してどのように処理されるのかに関する基礎的な考察を行った.
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