Research Abstract |
目的:大腿骨頸部骨折患者の機能的帰結である移動・移乗能力の再獲得をめざした訓練法の研究として,健常高齢者20名(平均年齢63.4+4.2歳)を対象に,椅子からの立ち上がり動作を運動学習と筋力との関係から分析した.本研究の仮説を「高齢者の立ち上がり戦略とバランス能力との間に関連がある」とした. 結果:健常高齢者の立ち上がり戦略は,バランス能力(閉眼の片脚起立時の接床回数で判定)との関連において大きく2群に分かれた.すなわち,バランス能力の極めて安定した群(安定群:5例)の立ち上がりは,運動性優位のモーメント戦略を示した.一方,バランス能力の極めて不安定な群(不安定群:5例)は,安定性優位のスタビライズ戦略を示した.しかし,対照群(10例)には特徴ある戦略は認めなかった.筋電図学的分析では,安定群の殿部離床後の,内側広筋、脊柱起立筋,腓腹筋活動は,不安定群に比して有意に低い活動を示した.さらに,同対象者に座面の高さを3段階(60cm,50cm,40cm)に変化させ,3種類(スタビライズ戦略,手すりの使用,モーメント戦略)の立ち上がりを教示したところ,不安定群は,60cmの高さで比較的低い内側広筋活動を得た. 次に大腿骨頸部骨折患者28名(平均年齢80.1±7.1歳)を対象に,帰結の予測に影響する再転倒不安とレディネスについて,特性不安測定項目(青木,今栄:1981)を基本に調査(各項目:4段階に分類)し,クロス集計法にて分析した.その結果,再転倒不安と階段昇降の不安の間には有意な関係があり,再転倒不安を訴えた患者21名中、両項目の不安度が共に極めて強い(段階1)例は8例認められた. 以上の結果から,高齢者の移乗・移動動作訓練は,バランス能力と立ち上がり戦略の関連性、つまり、動作の運動性と安定性のトレードオフの関係から課題の難易度を設定し,筋力をいかに効率よく,かつ習熟して発揮させるかにも重点を置くべきだと考えられた.
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