2006 Fiscal Year Annual Research Report
近代初期英米における「産み育てる身体」の成立過程に関する基礎研究
Project/Area Number |
17510220
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
野々村 淑子 九州大学, 大学院人間環境学研究院, 助教授 (70301330)
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Keywords | 女性預言者 / 女性説教者 / 身体観 / コスモロジー / 空位期 / 宗教改革期 / 英国 |
Research Abstract |
昨年に引き続き、17世紀英国の女性預言者・説教者の著作を収集し、マイクロからの焼付、解読を行いつつ、彼女らの活動を支えたセクト運動の実態、さらに当時の人間観、身体観、世界観、コスモロジーの解明につとめた。 1.女性説教者批判の構造 ブリティッシュ・ライブラリー所蔵のトマソン・トラクト(1640年より1661年の空位期-検閲制度弛緩期-に出版されたパンフレット類の収集コレクション)には、社会の混乱期(「ひっくり返った世界」)の、様々な社会階層の女性たちの申立てや意見表明についての風刺が数多く収められている。そのなかの、セクトの男性平信徒説教者たちと共に、当時の多くの人々に共鳴された女性説教者に対する批判文書を分析した。 人々に対して説教をすること(教えること)は、「弱き性」「劣った性」であり悪魔に影響されやすい女性には許されざる行為である、神の法に触れる冒涜行為であるという批判者側(長老派聖職者)の意見からは、教会組織における女性説教者たちの位置づけの一端をみてとることができた。さらに、彼らが見聞録として批判の対象とした女性説教者の説教場面は、当時の人々の有する霊性についての感覚、コステロジーに基づく信仰体系のありようを映し出す。それは、霊が世界(人間の内的世界と外的世界)を動き回り、人々の運命を左右するという感性である。彼女たちの情熱的かつ恍惚的な説教場面に聞き入る人々が非常に多かったことは、こうした批判パンフレットにおける切迫性からもわかる。そして、批判者たちも同様のコスモロジーのなかに生きていたことは、その秩序の撹乱への危機感から明らかであろう。(研究成果を参照) 2.女性説教者・預言者の実践の構造の解明 ニューモデル軍に多くの信者を擁した武闘派のセクト第五王国派の活動背景と、そこで活躍した二人の女性の著述に当たった。メアリー・ケアリーは、千年王国思想によりイエスの王国=英国の樹立を鼓舞するとともに、大学教育や救貧施策に関する提言を残している。他方アナ・トラプネルは、地方巡回を通じ第五王国派の思想を人々に伝道したが、その方法はシャーマニズムに近い。女性たちの活動を説教ではなく預言として位置づけようとする考え方が優位を占めていたことも重要である。双方が残した膨大な著述群については、整理およびその中核たる千年王国思想の理解(の途上)にとどまり、身体観、コスモロジーについての分析は最終年度に見送った。他の女性説教者の著述についても整理、分析を進めつつあり、19年度は女性の説教と身体観との関係構造を明らかにする計画である。
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Research Products
(1 results)