2005 Fiscal Year Annual Research Report
<知覚の行為性>に関する現象学的・相互作用主義的研究
Project/Area Number |
17520003
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
小林 睦 岩手大学, 人文社会科学部, 助教授 (20292170)
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Keywords | 相互作用主義 / 生態学的心理学 / 現象学 / J.J.ギブソン / 知覚システム / ハイデガー / 世界内存在 / 特殊神経エネルギー説 |
Research Abstract |
本年度は、「知覚の行為性」という観点から、相互作用主義と生態学的心理学との関連を分析し、前者のうちにギブソンの知覚論を位置づける作業を行なった。 (1)まず、主体と環境との相互連関に注目するJ.J.ギブソンの生態学的な発想が、相互作用主義の一つのあり方を示すとみなせるかどうかを検討した。すでにこれまでの研究では、ギブソンの第二の主著『知覚システムとしての諸感覚』に依拠しながら、J.ミュラーの「特殊神経エネルギー説」等に対してギブソンが行なった批判と代替案の内容を分析してきたが、今年度はさらに、G.L.ウォールズの生態学的視覚論がギブソンに与えた具体的影響について精査した。特に、ウォールズが『脊椎動物の眼とその適応放散』第二部で行なった、脊椎動物の眼の形態や機能の進化についての「生態学的(Ecologic)」な分析を取り上げ、ギブソン知覚論の生態学的起源を踏査することを試みた。具体的には、同一の進化論的起源をもつ脊椎動物の眼が、周囲環境におけるさまざまな変化要因(周期性活動、昼行性活動、夜行性活動、空間と運動、媒質と基盤、光学的性質)に対してどのように適応し多様化していったか(適応放散)を解明するウォールズの議論を参照することで、ギブソンの生態学的な発想の相互作用主義的な側面を際立たせることができた。 (2)次に,ギブソンによる「知覚システム」概念と、ハイデガーによる「世界内存在」概念を、生態学的な観点から比較することを試みた。ハイデガーの「世界内存在」概念は、認知科学における反表象主義の先駆形態として、相互作用主義・環境主義的な立場との関連で肯定的に評価され、あらたな文脈で捉え直されつつある。しかし、ギブソンとハイデガーの世界把握に共通するかにみえる反表象主義的な構えの背後には、まったく対照的な知覚解釈の前提が存在しており、その差異構造を明らかにすることが課題となった。具体的には、「世界内存在」概念の形成に影響を与えたフォン・ユクスキュルの「環世界(Umwelt)」概念が、J.ミュラーの「特殊神経エネルギー説」を動物世界へ適用することにより形づくられた事実をふまえ、「世界内存在」概念と「知覚システム」概念とのあいだにどのような異同があるのかを検証した。 以上の研究成果は、「ハイデガーとギブソン-生態学的観点から見た知覚の構造-」として、平成18年度中に学会および論文において発表される予定である。また、今年度は、B.ヴァルデンフェルスの身体論に見られる「応答系(Responsorium)」概念についても、相互作用主義的な観点から研究を行い、その成果の一部は、書評論文(「B・ヴァルデンフェルス『講義・身体の現象学-身体という自己』」)として学会誌に発表された。
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Research Products
(1 results)