2006 Fiscal Year Annual Research Report
<知覚の行為性>に関する現象学的・相互作用主義的研究
Project/Area Number |
17520003
|
Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
小林 睦 岩手大学, 人文社会科学部, 助教授 (20292170)
|
Keywords | 相互作用主義 / 生態心理学 / 現象学 / J.J.ギブソン / 知覚システム / E.フッサール / A.ノエ / イナクショニズム |
Research Abstract |
本年度は、現代的な知覚解釈の争点をさらに推し進め、ありうべき知覚理解を探求するために、知覚のもつ行為的側面に注目した三つの分析(現象学、生態心理学、イナクショニズム)に焦点をあて、それらを比較検討することを行なった。知覚は受動的な感覚の統合ではなく、能動的な行為の連関であるというのがこれらの知覚論に共通する見解であり、そのような解釈に本研究も与するからである。しかしこれらの知覚論は、それぞれが主張された時期に支配的であった知覚観に対して、共通する観点からの批判を行なう一方で、認識論的にはまったく異なる立場をとってもいる。それゆえ、本研究の研究目的を遂行するためには、「知覚の行為性」を重視する三つの立場の異同を明らかにすることが必要となる。そのために、本年度は、以下の二つの作業を行なった。 (1)まず、前年度の研究成果を踏まえながら、ギブソンによる「知覚システム」概念と、ハイデガーによる「世界内存在」概念を、生態学的な観点から比較することを試みた。ハイデガーの「世界内存在」概念は、認知科学における反表象主義の先駆形態として、相互作用主義・環境主義的な立場との関連で近年肯定的に評価されつつあるが、両者の世界把握に共通するかにみえる反表象主義的な構えの背後には、J.ミュラーの「特殊神経エネルギー説」にかんする解釈という点で、まったく対照的な知覚解釈の前提が存在しており、その差異構造を明らかにすることを行なった。 (2)次に、知覚の行為性を強調する三つの立場(E.フッサールによる現象学的知覚論、J.J.ギブソンによる生態学的心理学、A.ノエによるイナクショニズム)における理論構成の異同を確認する作業を行なった。これらの知覚観を比較する作業を通じて、それぞれの立場が知覚を、(a)<運動>として捉える(フッサール)、(b)<システム>として捉える(ギブソン)、(c)<行為>として捉える(ノエ)、という行為強調的な特徴を明らかにすることが可能になったが、現象学における表象主義的な<間接知覚説>と生態心理学における反表象主義的な<直接知覚説>との対立のうちで、A,ノエらのイナクショニズムをどう位置づけるかを検討する作業は、次年度の課題として残された。 なお、以上の研究成果のうち、(1)の研究成果は、日本現象学会第28回研究大会で「ハイデガーとギブソン-生態学的観点から見た知覚の構造-」として発表され、平成19年度発行予定の『現象学年報23号』への論文掲載が決定している。
|