2006 Fiscal Year Annual Research Report
ハイデガー哲学における他者論の可能性と看護理論への応用についての研究
Project/Area Number |
17520023
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
池辺 寧 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (00290437)
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Keywords | ハイデガー / 気づかい / 共同存在 / 顧慮 / ケア / ベナー |
Research Abstract |
本研究はハイデガー哲学を他者論として読解し、看護理論へと応用することを課題としているが、その際着目したいのは「気づかい(Sorge)」という術語である。本年度は、ハイデガーが用いる気づかいに関して従来みられる誤解を指摘し、そのうえで彼の哲学を手がかりにして、他者をケアすることの哲学的な基礎づけを試みた。ハイデガーは、現存在(人間存在)とは常に何かを気づかっている存在であると規定し、現存在の根底に気づかいという構造を見出した。Sorgeを英訳するとcareとなる。そのため、ハイデガーの哲学はケア論として解釈されることがある。だが、彼が用いる気づかいという語と、ケアという語で一般に理解されている内容とは異なる。ハイデガーは気づかいという語でもって、現存在の種々の行為(ケアもその一つに挙げることができる)を可能にしている現存在のあり方を論じているのであって、ケアとは何か、ケアはどうあるべきかを問題にしているわけではない。気づかいとは、現存在とはいかなる存在であるかを論じる存在論的概念であるが、ハイデガーの哲学をケア論として解釈しようとする論者はこの点を十分に理解していない。 ハイデガーによれば、現存在は生来、他者との共同存在である。つまり、彼の分析に従えば、現存在が他者との共同存在であるから、種々の人間関係や社会は生まれてくる。そのなかで他者をケアするという行為も生じてくる。ハイデガーは他者に対する関わり方を顧慮と呼んでいるが、支配と支援を顧慮の両極端に据える彼の分析は看護や介護のあり方を考えるうえで示唆に富む。 以上の研究成果の一部は、第14回日本介護福祉学会大会で報告するとともに、「ハイデガーにおける気づかいの概念-ケア論への応用をめぐって」(『介護福祉学』第14巻第1号)という論文にまとめた。
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Research Products
(2 results)