2006 Fiscal Year Annual Research Report
『判断力批判』の研究およびハイデッガーのカント解釈と『判断力批判』の整合性の研究
Project/Area Number |
17520031
|
Research Institution | Hiroshima International University |
Principal Investigator |
甲田 純生 広島国際大学, 社会環境科学部, 助教授 (30352024)
|
Keywords | 図式 / 時間性 / 構想力 |
Research Abstract |
カント『純粋理性批判』およびハイデッガー『カントと形而上学の問題』に関する昨年度の研究成果を踏まえ、『純粋理性批判』に関するハイデッガーの解釈の妥当性および問題点、射程、独創性、カント解釈としての可能性を探るのが、今年度の研究の第一の目的であった。その際特に問題となるのが、『純粋理性批判』の中の演繹論および図式論であった。カントの言に従えば、「図式」とは概念を時間化したものである。しかしながら、このカントの発言自体が容易に理解しがたいものである上に、『純粋理性批判』における「図式論」が難解極まるものであるために、従来のカント研究は「図式とは何か?」という視点から進められてきた。 本年度の研究の最も大きな成果は、カント研究において「図式とは何か?」という周いそのものが、そもそもミスリーディングである、ということである。「図式」とは我々の日常感覚を離れた抽象物なのではなく、むしろ我々の日常的ふるまいの中での言語のあり方に他ならない。それは、ヴィトゲンシュタイン流に言えば、言語ゲームの中での「言葉」であり、我々が日々使用している言語の姿である。ハイデッガーが『カントと形而上学問題』の中で「すべての概念的表象作用はその本質から見て図式性である」と言っているのは、以上のような事態を言い表したものであろう。したがって、我々が真に問わねばならないのは、「図式とは何か?」ではなくむしろ「概念とは何か?」なのである。「概念」という言葉が哲学において自明化しているために、哲学史において、今日までこの問いが「図式とは何か?」という問いの背後に隠れてしまってきた。今後、この問いの変換にともなって、「存在」を時間性と理解するハイデッガー哲学も、新たな相貌を見せることだろう。
|