2007 Fiscal Year Annual Research Report
グプタ朝期におけるアビダルマ教学とヴァスバンドゥの教義解釈研究
Project/Area Number |
17520052
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Research Institution | Koyasan University |
Principal Investigator |
室寺 義仁 Koyasan University, 文学部, 教授 (00190942)
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Keywords | 仏教学 / 印度哲学 |
Research Abstract |
本研究代表者は、3年間に亙る当該研究課題を、平成19年度末をもって、研究成果報告書(本文106頁)として纏め上げた。その中で、西歴4・5世紀頃のグプタ朝期の古典インド世界では、サンスクリット文学の黄金期を迎え、サンスクリットで伝わる古伝承もまた採集集成されたようであるが、この時代潮流の中にあって、仏教教学の展開においてもまた、正統なアビダルマ教学とともに伝承されてきた「古の、アビダルマを語る人々」が拠り所としていた「経」の趣旨を語り継いで、「論」を拠り所とする学説に異を唱えた者たちがいたこと、そして、その背景には、「慧」(経験的知)と「智」(先験的知)との、悟りの自覚知を巡る教義解釈上の対立があったことを解明したと考える。ブッダ固有の「仏智」を、求道者たち自身の心(あるいは、思)の働きとしての「向漏の慧根」によってこそ獲得し得る、と言う古いアビダルマ師や瑜伽師たちの説は、ヴァスバンドゥの教義解釈に決定的な影響を与えており、後に「唯識」学説の体系的構築への確信へと導く。そこで本報告書の中では、一方で、ヴァスバンドゥ作の『阿毘達磨倶舎論』における「論」(根本アビダルマである『発智論』と、その大注解論書である『大毘婆娑』の両論)の文言通りの引用箇所について詳細な文献学的検証を行い、また、「経からの逸脱」との用語をヴァスバンドゥが用いる時の「経」の特微について検討し、さらに、十二支縁起の第一「無明」支の経典説明に係わる伝承上の異読を取り上げて、ヴァスバンドゥが行なう教義解釈の性格について、教学史上の位置付けを試みた。他方で、大承経である『十地経』が説き示す菩薩にとっての精神ステージの十の階梯について、特に「大悲」に他ならない「仏智」へと向かう、菩薩のマナス(意)の集中行爲(「念」あるいは「作意」)に対するヴァスバンドゥの理解を明らかにした。
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Research Products
(3 results)