2005 Fiscal Year Annual Research Report
二つの戦後の出発-「フランクフルト学派」と『思想の科学』
Project/Area Number |
17520070
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Takasaki City University of Economics |
Principal Investigator |
藤野 寛 高崎経済大学, 経済学部, 教授 (50295440)
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Keywords | 大衆の欲望 / 集団心理 / ファシズム / 『思想の科学』 / フランクフルト学派 / 精神分析 / プラグマティズム / 同一化 |
Research Abstract |
三年計画で構想されたこの研究は、その初年度において、予定とはいささか異なる展開をみた。今年秋に刊行が開始される『フロイト合集』に収められる『集団心理学と自我分析』の翻訳という課題が、その中に新たに組み込まれたからである。日独のファシズム体験との戦後における学問的対決という場合、人々がファシズム体制を単に渋々甘受したのではなく進んで歓迎さえした事実の内にはどのような心の機制が働いていたのか、という問いは極めて重要である。その際、フランクフルト学派には、フロイトによる精神分析理論という拠り所があった。その点で最も重要な文献こそ『集団心理学と自我分析』に他ならない。ここでフロイトは対象備給と並ぶ感情的拘束として「同一化」を取り出し分析を加えるのだが、「非同一性」をめぐるアドルノの思考への影響は明白である。それに対して、『思想の科学』グループに心理学的な問題関心は存在していたのか。丸山真男に「超国家主義の論理と心理」という有名な論考があるが、「日本のファシズムの心理的基盤」という問いの立て方には「日本人の心」という表現が引き起こすのと同様の違和感がつきまとう。実際、丸山の分析を「本当にこれは日本にだけ当てはまる事情なのか」と問わずに受け入れることは難しい。総じて、「大衆」現象をどう解釈すべきかという問題が、本研究にとって極めて重要な位置を占めることが明らかになった。その点で否定的なフランクフルト学派第一世代に対して、「大衆の欲望」に対する鶴見俊輔の肯定的姿勢は好対照である。そこにアメリカのプラグマティズム哲学に対する態度との相関関係を見て取ることは容易であり、この点で、フランクフルト学派第二、第三世代がむしろプラグマティズム哲学から学ぼうとする姿勢を示している事実は示唆深い。そういう問題点も含め、二年目の今年は、懸案である『思想の科学』創刊メンバーへの聞き書きという作業を強力に推し進めてゆきたい。
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Research Products
(3 results)