2006 Fiscal Year Annual Research Report
二つの戦後の出発-「フランクフルト学派」と『思想の科学』
Project/Area Number |
17520070
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
藤野 寛 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 教授 (50295440)
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Keywords | プラグマティズム / 言語批判 / 哲学批判 / フランクフルト学派 / アドルノ / 鶴見俊輔 / 共同研究 / 戦後啓蒙 |
Research Abstract |
一九四五年の時点で、『思想の科学』グループと「フランクフルト学派」に共有されていたのは、「言葉の力」に対する徹底して懐疑的で批判的な眼差しだった。人々を戦争に動員し戦時中の錯誤の中に繋ぎ止めた力としての言葉。そして、それらの言葉の中でも最も深遠にして高貴なものと自負もし他からも受け止められた哲学の言葉。両グループの戦後の出発点の最重要課題は「言語批判」であり、「哲学批判」だったのだ。『思想の科学』創刊号の特集テーマの二つは「哲学論」と「言語」である。そしてその後も、「言語」と「ひとびとの哲学」(「「普通人の哲学」とは、私がアメリカの哲学で学んだ最も重要な考えである」、とは鶴見俊輔が繰り返す発言である。普通の日本人の日常生活と伝統の中に、彼は二度とファシズムにからめ取られない「思想」を発掘していこうとした)は特集テーマとして繰り返し取り上げられ、初期の『思想の科学』の二本の柱を形作っている感さえある。 それに対し戦争直後のアドルノは、表現行為そのものを金縛りにするような「アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮だ」という言葉を発した。この詩的表現へのそれ自身詩的な断罪の言葉は、しかし彼の哲学の文体そのものでもある。アドルノは、芸術表現にもブレーキをかけかねない否定のメッセージを発しつつ、自らの哲学の言葉を、ハイデガーの言語(「本来性の隠語」)への批判を仮借なく遂行する一方で、むしろ科学批判、芸術への接近の方向で模索した。鶴見俊輔が、言語批判の拠り所を、プラグマティズム、広い意味での分析哲学に求めたのとは対照的に。 しかし、『思想の科学』を拠点とする鶴見のその後の思考は、科学論の方向には向かわず、むしろ大衆芸術の可能性の発掘に力点を置くものとなる。とはいえそれは、「ひとびとの哲学」という出発時の志向の延長線上にあるものなのだ。「言語批判」にして「哲学批判」として両グループを捉える視点は、ここでもその有効性を確認できるだろう。
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Research Products
(3 results)