2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17520093
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
清瀬 みさを Doshisha University, 文学部, 准教授 (00367963)
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Keywords | 美術史 / 美学 / 建築史・意匠 / 都市計画・建築計画 / 環境調和型都市整備・建築 |
Research Abstract |
本年度の研究目的は、武田五一の時代を先取りする建築思想、「周囲の環境との調和」が意味する内容を明かにすることであった。 そのために主としてふたつの調査を行った。ひとつは、武田の時代に美術家たちが描いた京都、大阪、神戸などの景観を比較し、京都の景観のベースとなる自然あるいは風景のイメージを検証すること。 いまひとつは、大正から昭和初期にかけて、武田が審査員を務めた設計競技図案集、また武田の審査評などの傾向を当初の市内を描いた美術作品を調査し、武田の先進的な建築理念である周囲との調和が何を意味するのかを検証する作業を行った。 その結果、京都近代洋画黎明期の画家たち、伊藤快彦、長谷川良雄、田中善之助、田村宗立らの描く京都、村上華岳のような神戸在住の画家が描いた六甲と京都のイメージを比較分析した結果、淡く明るい土の色、陰影の浅い東山の山並、景観に方向性を与える浅瀬の鴨川が重要なモチーフであることが検証された。 また一方では、大正12年の神戸市公会堂新築設計競技当選図案集の審査評で武田が予算超過のために二等をつけた図案が六甲の山並みとの調和という点で図案としては一番優れている、と特筆している点が注目された。そして、淀屋橋設計図案では既存の市庁舎や日銀との意匠の調和、京都大礼美術館では平安神宮、図書館、東山との融合が評価されていることが明かであった。武田設計作品と当時の景観を重ねて考えると、結果として、武田が理想としたランドマークとしての建造物は時代の流行を取り入れつつも、建築家の自己主張ではなく、既存の自然や建造物との穏やかな調和をめざしていると理解できよう。景観論争の盛んな今日こそ、さらに詳細に武田の建築と思想を検証する必要が確認された。
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