2005 Fiscal Year Annual Research Report
カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの近代性と受容の歴史をめぐる諸問題
Project/Area Number |
17520095
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
仲間 裕子 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (70268150)
|
Keywords | ドイツ・ロマン主義美術 / 美術作品における近代的構成 / 視覚の変容 / モダニズムとナショナリズム |
Research Abstract |
C.D.フリードリヒの近代性の考察において、《画家のアトリエからの眺め》の一対の作品を画家の近代的視点、つまり、一点集中的・伝統的遠近法から乖離する視点を駆使した最初の作品として捉え、この作品が"断片的"構成であるとの結論を導き出した。この結論付けには、画家のアトリエの位置の確認が必要であり、ザクセン州立図書館地図部門他で調査を行った。そこで判明した、描かれた風景の実際の風景とは異なる構成は、さらなる資料・文献調査からこの画家特有の物語形成を目的とし、田園対都市という精神的図式の表現として解釈すべきであるとの結論を得た。それはまた時代の視覚の変容に対応した創作であること、さらに初期ロマン主義思想の影響が不可欠な観点であると理解された。フリードリヒの独自の遠近感を含めた幾何学的構成を確認するため、ドレスデン素描・版画館にある作品群を徹底的に調査した。また、ベルリン芸術図書館、ミュンヘン芸術研究所の資料から、同時代の批評は、今日の「センチメンタリズム」的受容ではなく、むしろ「抽象的」という構成にみる近代的特徴に基づく分析である点が明確となった。受容に関しては、フリードリヒの作品が20世紀前半のモダニズム対ナショナリズム論争に巻き込まれていく過程を「ドイツ100年展」(1906年)の資料調査で確認することができた。フリードリヒの作品の近代性こそ、100年展企画者の重視した特質であるが、結局反フランス美術の動向のなかで、「ドイツ精神」の体現者というフリードリヒ像が形成される過程を新たな資料で確認することができた。ドイツ帝国によるモダニズム批判のなかで、フリードリヒの近代美術としての特質が見過ごされ、19世紀初期のフリードリヒの時代の人々が敏感に捉えていた画家の近代的独創性は、20世紀前半のナショナリズムとともに「精神的・内面性」の画家として国家の象徴的存在へと変質されたのである。
|
Research Products
(1 results)