2005 Fiscal Year Annual Research Report
漱石文学における「読者の期待の地平」取り込みの構造に関する研究
Project/Area Number |
17520128
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
石原 千秋 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (00159758)
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Keywords | 漱石文学 / 読者 / 期待の地平 |
Research Abstract |
平成17年度は、幸運にも漱石と同時代の雑書との関係について雑誌連載を依頼され、科研費によって購入した数十冊の雑書とこれまでの手持ちの雑書とを含めて、合計で数百冊の雑書の読み込みと分析を行うことができた。 この分析の結果、(1)漱石の時代においては「能力」は「脳力」と表記され、男のみに許された価値尺度となっていたこと、(2)明治30年代の女学生の増加に伴って、「女学生」と「堕落」というタームが近接したこと、(3)当時の男にとって女は「謎」として把握されていたこと、(4)立身出世のためには男には社会での社交が、女には親族間での社交が求められたこと、(5)恋愛においては教育を受けた女性は積極的な行動に出ることが期待されていたこと、(6)ある程度以上の階層の女性にとっては、人生の「上がり」は結婚であって、そのために男の側に家系を含む様々な要因についてのチェックが広まったこと、などが明らかになってきた。 これらと漱石の小説を付き合わせることによって、階級社会イギリスの小説をモデルに、日本でも階級が形成されていた明治大正期のアッパー・ミドルクラスを書き続けた漱石にとって、雑書が共有していたパラダイムが大変重要な背景となっていたことが明らかとなった。例を2、3挙げるなら、当時の「読者」にとっては、「脳」の状態を大変気にする『それから』の主人公代助は、それだけで特権的な「高等遊民」と読めたであろうし、上京して東京の女学校に通うヒロイン三千代は、それだけで悲運な恋に落ちることが期待されたであろう。 かくのごとく、雑書の分析によって、当時の「読者の期待の地平」が具体的に見えてきたところである。
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Research Products
(6 results)