2007 Fiscal Year Annual Research Report
漱石文学における「読者の期待の地平」取り込みの構造に関する研究
Project/Area Number |
17520128
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
石原 千秋 Waseda University, 教育・総合科学学術院, 教授 (00159758)
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Keywords | 漱石文学 / 読者 / 期待の地平 |
Research Abstract |
平成19年度は、3年間にわたる研究の最終年度に当たる。そこで、これまで雑誌連載や新書としてまとめてきた各論を総合的にまとめ直すことに專念した。 研究の目的は、夏目漱石が文学理論で言う「読者の期待の地」に漱石がどう対応したのかを明らかにするとにある。方法としては、当時新興の中流階級を読者層として想定していた「朝日新聞」の読者が読んだだろうと思われる明治・大正期の雑書を分析して漱石の小説と対応させて、その関係を明らかにしようとした。 結論としては、漱石は「読者の期待の地平」を取り込むことで新聞の連載小説としての商品価値を高め、「読者の期待の地平」を裏切ることで文学的価値を高めることを目指していたと考えられる。 一例を挙げれば、漱石は『三四郎』において、ヒロインの美禰子をキリスト教に関心がある女学生上がりであるように設定して、当時興味本位に「堕落する」ことが「期待」されていた女学生になぞらえ、複数の男性に興味を抱く「男性を惑わせる女性像」として表象し、「読者の期待の地平」に応えた。しかし一方で、美禰子をおそらくは家長である兄の意向を受けて、兄の友人の法学士に嫁がせることで、当時流行の「近代女訓もの」とでも言うべきやや保守的な多くの雑書が説く「女性の理想の生き方」に従わせた。このことによって、読者は美禰子に関する「期待の地平」を一つに焦点化することが不可能になったはずで、そこに漱石の文学的価値に対する「意識の高さを見ることができる。 なお、本年度は総合的なまとめに專念したので、本研究に直接関連する成果発表はない。3年間の研究成果は、いずれこく近い将来に本としてまとめ、公刊する予定である。
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