2005 Fiscal Year Annual Research Report
中欧における教養の精神史-フンボルトからスローターダイクまで
Project/Area Number |
17520163
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大川 勇 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 助教授 (10194086)
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Keywords | 教養 / ユートピア / 中欧 / 大衆 / 可能性感覚 / フンボルト / ニーチェ / ムージル |
Research Abstract |
本研究は、ヴィルヘルム・フォン・フンボルトの教養理念がその後約200年の中欧精神史の中でいかに受容され、また変容したのかを追跡することによって、この理念の受容ないし変容の過程で生じた問題点を明らかにし、現在崩壊の危機に瀕している教養の再生可能性を模索することを目的とする。 本年度は、ニーチェによるフンボルトの受容を考察した。初期の『反時代的考察』から後期の『ツァラトゥストラはこう語った』にいたるまで、生涯にわたって「教養俗物」を罵倒しつづけたニーチェは反教養主義者と見なされることが多い。しかし、『音楽の精神からの悲劇の誕生』刊行直後に行われた講演『われわれの教育機関の将来について』を読めば、それが皮相な見解であることがわかる。この講演でニーチェは徹底的に同時代の浅薄な教養観を批判し、フンボルトの教養理念への回帰を訴えているのである。だがしかし、ニーチェの教養理念がフンボルトの教養理念と完全に一致するわけではない。万人に開かれた普遍的教養を信じていたフンボルトに対し、ニーチェは天才を保護することに特化した教養機関の必要性を主張する。そこには大衆社会の幕開けを迎えたヨーロッパに生きるニーチェの苦悩が反映している。 くわえて、京都新聞に「ユートピアの精神史」と題した論説を連載する機会を得て、教養とユートピア的思惟との関連について考察した。現在、計15回の連載の途中であるが、ムージルの可能性感覚を起点として、ユートピア的思惟としての教養理念をフンボルト・シュティフター・ニーチェを結ぶラインに見いだすことができた。
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Research Products
(5 results)