2006 Fiscal Year Annual Research Report
バロックおよび啓蒙主義時代のドイツ文学における才能と職業と責任について
Project/Area Number |
17520177
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
佐藤 正樹 広島大学, 大学院総合科学研究科, 教授 (90131143)
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Keywords | ドイツ文学 / 天才 / 職業 / バロック / 啓蒙主義 |
Research Abstract |
1.ヘルダーリーンは詩人を天職とみなし、神のことばを伝える伝声管となることこそ自分の使命だと認識していたが、そこから生活の糧が得られない不幸をくりかえし訴える。何度も家庭教師を経験し、官吏や牧師となる機会もなくはなかったが、これらの「職業」とみずからの「才能」「使命感」との乖離に生涯苦しんだのである。ヘルダーリーンにあっては、「職業」と「才能」との不一致という現代の問題がすでにあらわになっている。 2.研究計画書に述べたとおり、バロックから、ヘルダーリーンに先立つ啓蒙主義時代までのこの問題を追跡するためには、中世詩人における「才能」と職業」の関係をある程度まで明らかにしておかねばならない。 ヴァルター・フォン・デァ・フォーゲルヴァイデの業績は、宮廷と結びつきながら「高いミンネ」と「低いミンネ」を歌い、政治詩によって為政者を調刺した点につきる。幾度も政変に巻きこまれ、栄光と挫折とをくりかえしながら伎倆を洗練し、王侯・貴族・皇帝に召しかかえられ、名誉と生活の糧とを授けられるのは当然のことだと考えていた。詩歌の制作は、騎士と同じように生活の糧を得るための「職業」であり、詩人たる天職となんら矛盾するものではなかった。 オスヴァルト・フォン・ヴォルケンシュタインも政治闘争に巻きこまれ、終生、金銭問題と物価高騰に悩んだ。自身は金にうるさかったが、金銭欲にそまった大衆を徹底的に軽蔑する貴族気質を脱することができなかった。むしろ晩年、皇帝戴冠式に呼ばれる栄誉を喜び、いそいそと肖像画を制作させる気位こそ、貧しくとも詩人たる「職業」を支える秘密であった。 3.以上のほか、近世からはとくにマルティーン・ルター、バロック時代からはグリンメルスハウゼンにおける「職業」と「金銭」の問題を分析し、これを専門科目「風俗史」に活かすことができた。詳細な研究は次年度以降に期したい。
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