2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17520180
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高木 信宏 九州大学, 人文科学研究院, 助教授 (20243868)
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Keywords | 19世紀フランス文学 / スタンダール / 近代小説 / ジャーナリズム / ロマン主義 |
Research Abstract |
本年度の研究作業は,『赤と黒』の着想から草稿執筆の時期にあたる1829年の新聞・文芸誌の実態調査を行った。まず基礎資料の収集としては,1829年に発行されたフランスの主要新聞7紙のマイクロフィルム,および同年に刊行された文芸誌「ルヴュ・ド・パリ」誌のマイクロフィルムを入手した。ついで,フランスでの現地調査では,国立図書館,アルスナル図書館,グルノーブル市立図書館において関連文献・資料の調査を行い,スタンダールの未刊草稿をはじめとする貴重な一次資料をデジタル・データ,複写等の形で収集した。 これらの資料の分析にもとづき,1829年における作家の執筆活動を厳密に検証した結果,1829年12月に発表された短編小説『ヴァニナ・ヴァニニ』の成立過程について定説をくつがえす実証的な知見をえた。同短編は『赤と黒』と制作時期が重なるだけでなく,その女主人公は後者のヒロインの原型と見なされてきたように,『赤と黒』の創作と密接な関係がある重要な作品である。このたびの考察によって,通説とは反対に,『赤と黒』における女主人公像の造型のほうが短編の執筆に先行し,制作の方向を決定づけた蓋然性を明らかにした。 なお,『ヴァニナ・ヴァニニ』の原稿執筆の時期を探るうえで重要な決め手となったのは,「コンスチテュショネル」紙に掲載された炭焼党に関する記事である。これによって王政復古末期にスタンダールが新聞記事を創作の取材源として重用していることがさらに裏付けられたと考える。 以上の研究成果は,九州大学フランス語フランス文学会「ステラ」(第25号)において公表している。
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Research Products
(2 results)