2005 Fiscal Year Annual Research Report
テクスト言語学の観点からのロシア語副動詞の総合的研究
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17520284
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
北上 光志 京都産業大学, 外国語学部, 教授 (40234257)
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Keywords | テクストの情報構造 / 完了体副動詞現在形 / 情緒的変化 / 他動性 / フランス文化 / 農奴解放 |
Research Abstract |
まず20世紀を代表する小説で用いられている副動詞をテクストの情報構造(前景と背景)と関連させながら機能分析を行った。従来の研究では述語動詞しか前景と関係しないと言われていたが、非述語形である副動詞(特に完了体)が前景と強く関係していることを明らかにした。次に18世紀と19世紀での副動詞形式について分析を行った。完了体副動詞過去と完了体副動詞現在(現代では化石化している)を情報構造の観点から比較した。副動詞は絶対的時制を持たないのでこの両者の使い分けは書き手の主観に左右される。こういった書き手の主観はテクストの情報構造と密接に関係している。従来の情報構造の規定は単なる時間的変化を基準にしていたが本研究では書き手の情緒面での変化に注目した。その結果、同じ完了体でも完了体副動詞現在の方が完了体副動詞過去よりも前景に関与しやすいことが判明した。またこの二つの副動詞の語彙分類を行い他動性との関係を調べた結果、完了体副動詞過去には特徴的な傾向は見られないが、完了体副動詞現在は他動性の低い語彙での使用が際立っていた。こういった完了体副動詞現在の特異性は一般言語学で普遍化されつつある理論「属性叙述は事象叙述に比べ一般規則に従わない現象が現れやすい」を裏づける新証拠となる。さらに完了体副動詞現在の盛衰原因についても考察した。フランス文化とフランス語の分詞構文がロシア語の完了体副動詞現在の使用に大きく影響している。当時の出版物での完了体副動詞現在の使用分布を年代別に調べ、社会事情と照らし合わせた結果、農奴解放後の出版物では完了体副動詞現在の使用が激減していることが明らかになった。フランスの自由思想に触れ帝政ロシアの社会的矛盾を詩、随筆、物語で表現した知識人にとって農奴解放が19世紀ロシアのエポック的出来事であり、このことが彼らの作風に影響した。
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