2007 Fiscal Year Annual Research Report
語形成の脳内メカニズム-理論言語学と言語脳科学の協働による実証的研究
Project/Area Number |
17520319
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 たかね The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 教授 (10168354)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 たかね 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (10168354)
萩原 裕子 首都大学東京, 大学院・人文科学研究科, 教授 (20172835)
杉岡 洋子 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (00187650)
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Keywords | 言語脳科学 / 事象関連電位 / 形態輪 / 統語論 / 埋め込み構造 / 使役構文 / AN(Anterior Negativity) / N400 |
Research Abstract |
1.使役構文の処理メカニズムについて国際学術誌に投稿していた論文を,査読者・編集者の修正要求を踏まえて改訂し,再投稿した。 改訂版においては,埋め込み(複文)構造を持つサセ使役非文(カードを並ばせる)の処理において,N400の他に,対応する語彙使役非文(学生を並べる)には見られないAN(前頭陰性波)が観察されたことの解釈について,実時間上の処理過程を以下のように提案した。まず,「カードを」の次に「並」を見た段階で,目的語が無生物であるために「並べる」という語彙使役を予測し単文構造を構築する。「並ばせる」を見た段階で誤りに気づき,単文構造を複文構造に改訂する(この構造改訂がANに反映)。その後,全体を処理する際に,「カード」と「並ばせる」の意味上の不整合に気づく(N400に反映)。 2.動詞の語彙情報検索によって検知される格違反の処理に関わるERP実験の結果解析及び先行研究との比較検討を行い,国際学会・国内学会で発表した。現在,投稿論文として執筆を準備している段階である。概要は以下の通り。 欧米の多くの先行研究は格違反にLANを報告しているが,本研究ではN400が観察された。これは,同じ「格違反」であっても,その逸脱の性質が異なるためであると考えられる。先行研究ではHe skinned he knee(正しくはhis)のような,統語構造から逸脱が判断できる例を用いている。一方,本研究では「犯人をぶつかる」(正しくは「犯人に」)のように動詞の語彙情報を検索して初めて逸脱と判定できる例を用いている。従来,LANは統語的逸脱,N400は意味的逸脱の反映と考えられてきたが,このような統語・意味の二分法では,これらの事実は説明できない。統語演算と語彙情報(=レキシコン・記憶)との二分法を視野に入れて,LANは演算処理上の問題,N400は語彙情報検索に関わる問題を反映すると考えることができる。
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Research Products
(10 results)