Research Abstract |
本年度は,最終年度として,史料収集の補充と分析の深化目指した。史料収集は,山口県文書館所蔵の毛利家文庫ほか長州藩関係史料の調査・収集を実施し,史料を入力した。分析では,軍制改革の性格が実際に発現する場である幕長戦争を集中的に分析した。その結果,次のような結論を得た。 (1)長州軍は,藩庁政事堂の統一的指揮のもと部隊の配備を行い,四境方面軍本陣は,各部隊を統括し,密接に連携を保ちつつ作戦を展開した。(2)長州軍は,諸隊はもとより,家臣団隊も基本単位は小隊組織に編制し,西洋式軍隊に改革されていた。諸隊および家臣団隊は,各作戦において混成して戦闘を遂行した。(3)長州軍は,散兵戦術を駆使し,山岳地形を巧みに利用して,制高を重視する作戦を展開した。また,ミニエー銃を標準装備し,征長軍の諸藩軍のゲベール銃を圧倒した。(4)長州軍は軍夫の動員体制を確立し,かつ,民衆の協力もあって,兵站を確保した。(5)征長軍は,旧式の諸藩軍もいたが,幕府歩兵組や和歌山藩軍は西洋式軍隊であり,また,軍艦は,当時最新最強の軍艦をそろえており,その艦砲射撃は,芸州口に軍艦が配備されていない長州軍を悩ませた。総合的にみれば西洋式装備では,質量ともに征長軍のほうが長州軍を上回っていた。長州軍は,優れた西洋式兵器によって勝利したとする通説は正確ではなく,むしろ散兵戦術など西洋式戦法に習熟し,それを充分に使いこなした点に勝因があったといえる。西洋式軍隊は,兵士に銃を持たせれば済むという単純なものではなく,組織や兵士の改革が達成されて初めて有効なものになる。そのことが達成出来ていたことが,長州藩軍制改革の最大の特質であったのである。
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