2008 Fiscal Year Annual Research Report
戦後日本における「家」意識の崩壊と、非婚・少子化との連関性、および天皇制の変質
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17520452
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Research Institution | Shizuoka University of Welfare |
Principal Investigator |
小田部 雄次 Shizuoka University of Welfare, 社会福祉学部, 教授 (30249255)
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Keywords | 皇室 / 華族 / 近代日本 / 女性 / 家制度 / 結婚 |
Research Abstract |
昨年度は、明治維新以後の全皇族のリストと婚姻関係について調査、整理した。また、昭和戦前、戦後の朝日新聞を中心として、一般社会の「家」意識の変遷について整理した。これらの成果は、当該研究報告書に記載する予定である。ちなみに、その概要を述べれば、維新以後の皇室の婚姻関係は、戦前と戦後では大きく2点が異なる。1点は婚姻先の家柄である。婚姻先の家の出自身分は、皇族あるいは上流華族(公家と諸侯)に限定され、皇位継承順位から遠のくほど、その出自身分の位置も低くなっていくのがおおよその傾向といえる。このことは、皇室から嫁ぐ場合も、皇室に嫁ぐ場合も、ほぼ同様の傾向を示している。こうした傾向は伝統的な慣行もあるが、維新以後の皇室典範などの法規によっても明文化されており、世間一般にも知られた原則であった。こうした原則はそのまま世間一般の婚姻関係にも波及し、家柄が高い家ほど、婚姻先の家柄の高低を強く意識していた。その意味で、皇室と一般家庭での婚姻関係は相似形であった。もう1点は複数の女子配偶者の所持の有無である。明治期までは皇室においても側室制度があり、一般家庭でも妾保持が容認され、法的にも嫡子、庶子の区別はありながらも、その存在自体は否定されなかった。しかし、明治以後、時代が下がるにつれて、一般社会での妾保持を罪悪とする思想も広まり、皇室でも同様の傾向が生まれていった。その大きな理由は国際化にともなう文明国としての体裁を保つことにあり、欧米キリスト教世界の一夫一婦制的価値観からすれば、複数の女性配偶者保持は未開の野蛮国的な印象が強まったからである。そして、皇室でも自分自身が身分の低い側室の子であることに自己嫌悪を感じる自我意識がうまれはじめたことも大きな要因となった。こうして戦後となるが、戦後は皇室の婚姻関係の出自身分への法的規制もなくなり、慣行も崩れていった。正田美智子の結婚はその典型であった。また、側室制度はすでに大正天皇、昭和天皇の時代に消滅し、戦後社会では容認されない状態にある。一般社会でも同様の傾向があり、婚姻は両性の合意、一夫一婦制が正しい価値として定着していった。もちろん例外事項は存在するが、あくまでも例外としてである。戦後、大きな変化は、むしろ、高度経済成長期以後にはじまった。とりわけ、一般社会における、「家」の崩壊が大きい。産業構造の変化にともなう労働形態の変化などから、いわゆる大家族制が壊れ、かつ核家族すら、単身赴任などによって崩壊していった。「大家族」「核家族」「個」という形で戦後の一般社会の「家庭」は変化していった。 そうした中で、新たな「家」をつくる自体も停滞し、非婚、晩婚、離婚などが増える。「家」を形成しても、子供を産まない(産めない)、数が少ないなどの少子化が、社会の変化にともなうさまざまな理由で増えていった。他方、皇室は戦後のアメリカンファミリー型家族を理想とし、その延長が続いている。しかし、近年では、皇太子の晩婚、男子が産まれないための皇位継承問題、女王たちの自由度の拡大などから、一般家庭と類似の傾向もみせている。とはいえ、皇室は世襲による「家」の継承がその原則であり、非婚や出生なしという自体は容認されない最後の一線となる。そのため、加速化する一般社会の「家」意識についていけず、皇室の「家」の観念が古いものとして孤立している。この孤立が加速化する一般社会の「家」の再建になるには、「家」を「個」に解体してきた現実社会のあり方が間われないと、たんなるかけ声だけで終わる可能性が高い。
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Research Products
(1 results)