2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17520506
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Research Institution | University of the Sacred Heart |
Principal Investigator |
印出 忠夫 聖心女子大学, 文学部, 助教授 (30232721)
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Keywords | フランス / 中世史 / キリスト教 |
Research Abstract |
1、平成18年度には予定通り、勤務校の研修休暇を利用して1年間フランスのリヨン市に滞在して課題研究に集中して取り組むことができた。すなわち、リヨン第二大学敷地内におかれた「社会科学高等研究院」に籍を置き、同教授J.シフォロー氏の指導を仰ぎつつ、アヴィニョン司教座参事会の総合的研究の第一歩として、同参事会の経済的基盤の解明について一次史料に基づいた研究をすすめ、一定の成果を見ることができた。 2、18年度は、シフォロー教授の勧めにより、13世紀および主として14世紀に、アヴィニョン司教座参事会に一般信徒から寄進されたchapellenie(礼拝堂付司祭禄)関連史料を集中的に分析した。寄進はいうまでもなく信心行為であるが、そのうちシャペルニーは極めて高額であり、その設定にあたっては、いきおい大規模な財産の移動を伴うことになる。したがって、シャペルニー研究はまさに経済と宗教の接点に位置するテーマであり、いわゆる「経済史」とは異なる視点からの教会経済の考察をめざす報告者としては格好の主題と考えられたのである。分析の結果、当該「禄」の設定にあたっては、中世末期のプロヴァンス地方に広く行われたemphyteose(永代賃借制)契約のシステムが広く利用されていたことがわかった。この制度はとりわけ黒死病の災厄以後の中世末期の人口流動的な社会に極めて適合的な土地所有システムであった。アヴィニョン司教座参事会は先進的にも、この制度を積極的に活用して人々の信心行為を勧奨したのである。 3、シャベルニーは参事会によるemphyteose利用の一端と理解される。なかんずく、今回利用した、1370年代に編纂されたシャペルニー関連文書を編纂した参事会長オド・モネタリイは、他方、黒死病以後混乱していた教会の財政基盤の整備にも努力し、成果を収めた人物であったと考えられる。そこで、今後は分析領域を拡大し、オドがemphyteoseをどのように利用して財政整備全体を実行したのかをより包括的に解明することが次の課題となる。
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