2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17520536
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
島津 俊之 和歌山大学, 教育学部, 准教授 (60216075)
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Keywords | 地籍 / 近代日本 / 内務省地理局 / 宮城県 / 奈良県 / 岡山県 / ベルギー / ブリュッセル地理学研究所 |
Research Abstract |
平成18年度は前年度に続いて基礎的史料の収集を継続し,その解読と分析を行った。国内の調査では主に奈良県の地籍編製事業の史料を多く収集した。また事業の中央政府レヴェルでの展開についても,有益な補足的史料を収集できた。ベルギーの調査では,前年度に引続いてブリュッセル地理学研究所に関する補足的史料を得た。現時点での研究実績としては,Le Moniteur belgeの1867年10月4日(水)の記事中に,昨日(10月3日)徳川昭武一行がファンデルメーレンのブリュッセル地理学研究所を訪れて最近の地理学的刊行物に大いなる関心を示した,という記述を発見した。これにより,随行した渋沢栄一がベルギーの地籍図を見て感銘し,帰国後に大蔵省で地籍編製構想を立案したという仮説がより一層現実性を帯びてきた。地籍編製事業の全国的展開については,滋賀県庁に保管されていた史料群の発見により,当該事業が内務省では同時代の地租改正事業と並ぶ大部な法令体系のもとで実施すべく構想されたことが明らかになった。内務省レヴェルでは当該事業は1890(明治23)年で事実上中止されるが,事業中止が宣言されなかったため,事業の実施主体となった府県では対応に差異がみられた。地籍編製の実験室として1875(明治8)年にいち早く事業が完了した宮城県は,統合による県域拡大により事業に再着手し,結局1890(明治23)年で地籍事務を事実上廃止し,内務省と歩調を合わせている。一方で岡山県では,早くから地籍図調製を重視しつつ事業を進め,1904(明治37)年になって漸く事業を中止している。他方奈良県域では,県の統廃合により堺県や大阪府の管下でそれぞれ異なった方式のもとで事業が進められたが,1887(明治20)年の奈良県再設置後に県令税所篤のもとで奈良県独自の地籍編製事業が改めてスタートし,1891(明治24)年に『奈良県大和国地籍一覧表』が,1892(明治25)年に『奈良県大和国実測全図』が完成した。こうした差異は,府県をとりまく様々な事情に加えて,地方官の政策や個性によるところが大きいと思われる。
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