2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17530047
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
良永 彌太郎 熊本大学, 法学部, 教授 (20139504)
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Keywords | 保険料 / 企業負担 / 国庫負担 / 地方公共団体負担 / 保険者拠出金 / 財政調整 / 国家責任 / 社会連帯 |
Research Abstract |
社会保険を私保険と比較した場合の制度的特色は、適用と保険料徴収の強制及び保険料と給付の比例関係の希薄化ないし切断である。わが国の社会保険制度は、一般的制度としての医療保険、介護保険及び年金保険があり、これに労働関係に特有の労災と失業を給付事由とするいわゆる労働保険(労災保険、雇用保険)が加わる。また、一般的制度のうち医療保険は被用者保険と非被用者保険が並立し、年金保険は被用者保険と国民年金が二層構造をなしている。このように一口に社会保険といってもその制度構造はかなり複雑である。従って、社会保険給付の費用負担に関する法的研究においては、社会保険制度全体に共通する面と個々具体的制度に特有の面とに区別して分析することになる。また1982(昭57)年の老人保健法による老人医療、1985(昭60)年の新国民年金法による基礎年金で本格的に導入された「保険者拠出金」、新国民年金法における第3号被保険者に対する保険料徴収対象からの除外、2000(平12)年実施の介護保険法における第2号被保険者の保険料負担と給付との牽連関係の極端な希薄化等をみると、これらは従来からの社会保険給付の費用負担に関する規範論理では把握できない極めて重要な変容が生じていることが分かる。 本研究では、特に、以上のような社会保険給付の費用負担関係に現われている劇的な変容現象に着目し、社会保険給付の費用負担に関する新しい規範論理の構築を目指した。その研究成果は、1.研究報告「社会保障法体系における社会保険の規範的意義」社会保険法理研究会(代表:河野正輝)、平成18年6月、熊本大学、2.研究報告「労災補償の生活保障理論-その形成と展開-」社会法研究会(事務局:久留米大学)、平成18年12月、熊本県立大学、3.研究報告「(論文紹介)江口隆裕『社会保険と租税に関する一考察-社会保険の対価性を中心として-』」社会保障法研究会(世話人:石橋敏郎)、平成19年3月、鹿児島大学、で発表済みである。 本研究において明らかになった点は、社会保険給付の権利性が、従来の理論ではその保険料負担の対価性に求められてきたところ、今日の社会保険制度においてはもはやこのような規範論理が貫徹されていると言うことはできず、社会保険の保険料負担の規範的意義は保険料負担者の権利保障という面だけではなく、保障を必要としている人々に対するなんらかの連帯責任という規範的把握を必要とするに至っている。ただ、その連帯責任の主体、要件、内容を規範的に根拠づける研究がなお残されている。この点については、平成19年度中に熊本法学に論文として公表する。
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Research Products
(1 results)