2005 Fiscal Year Annual Research Report
ポンド危機の政治経済学的研究-ポンドERM離脱をめぐる国内要因と国際要因の交錯
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17530107
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
阪野 智一 神戸大学, 国際文化学部, 教授 (10162299)
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Keywords | イギリス政治のヨーロッパ化 / 統治術 / マンデル=フレミング・モデル / 多様な資本主義論 / 自由主義型市場経済 / ポンドERM離脱 / メージャー政権 / サッチャー政権 |
Research Abstract |
研究開始年度に当たる本年度では、テーマであるポンド危機の政治経済学的研究に関する資料の収集に努めると共に、イギリス政治の「ヨーロッパ化」と保守党の統治術(statecraft)を主要な分析枠組として、1980年代中葉以降のサッチャー・メージャー政権の通貨政策の展開を分析した。その結果、健全通貨、均衡財政、自由市場への関与等の一連の政策展開は、これまでマネタリズムに代表される新自由主義的経済原理という観点から捉えられる傾向が強ったの対して、経済問題への政治的非介入による統治の自律性の確保という政治的側面を併せ持っていたことが明らかになった。同様に、ERM加盟をめぐる保守党内の対立は、相互依存を深めつつある国際政治経済の中での統治の自律性を確保するための手段をめぐる見解の対立という側面を色濃くもっていた。保守党内統合懐疑派の反対にも拘わらず、ERM参加を決定したのは、為替リスクに対する懸念という、産業界や欧州最大の金融セクターであるシティからの強い圧力に因るものであった。だが、ERMからのポンド離脱は、マンデル=フレミング・モデルによる「国際金融のトレリンマ」に依拠すれば、(1)自由な資本移動、(2)自律的な金融政策を選択し、(3)為替の安定性を犠牲にしたことを意味した。ヨーロッパ通貨統合やドイツ金融政策による共通の圧力を受けつつも、上記のイギリスの政策対応は、収斂化の中の分岐を示す好例であり、国家-資本関係におけるイギリス的特質等、「多様な資本主義」論で自由主義型市場経済と特徴づけられるイギリス資本主義の制度的特質とその変容を分析することが、今後の課題として残った。研究の最終年度である来年度は、こうした課題の検討をさらに深め、成果の公開に結び付けていきたい。
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Research Products
(1 results)