2006 Fiscal Year Annual Research Report
文化政策と産業政策の政策統合による都市経済の再生に関する国際比較研究
Project/Area Number |
17530171
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
後藤 和子 埼玉大学, 経済学部, 教授 (00302505)
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Keywords | 創造性 / 創造的産業 / 都市政策 / 税制 / インセンティブ / 産業組織 / 流通 / 文化経済学 |
Research Abstract |
18年度は、創造的産業の発展に関わる税制と、流通のしくみに関する国際比較研究を行った。 日本では、文化や創造的産業に対する税制による支援は、まだ限定的にしか適用されていない。しかし、アメリカでは個人寄付を中心とした寄付税制が大きな役割を果たし、ヨーロッパでも、1990年代以降の財政削減と反比例するように、映画やスモール・ビジネスのスタート・アップを支援する税制が適用されるなど、その発展が著しい。 日本でも、2006年5月には、公益法人に関する法律が改正され、従来の主務官庁制度が廃止され、第三者機関が公益を判断して、一般財団・社団と公益財団・社団とに分類される見通しとなった。それに伴い、税制の改正も行われる予定である。そうした現実的課題をも念頭に置きつつ、第一に、オランダ・ライデン大学の税法研究者とともに、寄付税制に関する国際比較研究を行い、国際文化経済学会、財政学会、文化経済学会で発表した。 寄付税制とその効果に着目した場合、個人や企業の寄付行動に影響を与えるのは、税制や限界税率だけではないことは周知のとおりであるが、寄付行動に影響を与える他の要因については、寄付文化という一言で片づけられてしまう傾向が強い。それに対して、D.ノースの制度経済学を援用し、寄付行動に影響を与える制度的枠組が、フォーマルな制度(税法や非営利組織に対する規制)と歴史的に形成されたインフォーマルな制約から成り立っている、という理論枠組みで国際比較を行った。 第二には、来日した共同研究者とともに、映画や創造的産業のスタート・アップに関するヨーロッパの税制に関して、セミナー等を開催し、具体的にどのような税制が導入され、その効果はどうか等を検討した。その結果、オランダでは、映画への投資に関するタックス・インセンティブは、その目的に対して効果を挙げていないこと、他方で、スモール・ビジネスのスタート・アップヘの個人投資や文化ファンド等のタックス・インセンティブが有効に機能していることが分かった。 第三には、創造性へのインセンティブ構造に着目して、1980年代以降の流通やロジスティクスの変化に関する理論研究を行った。その結果、日本の創造的産業の流通が、概して、創造の質より流通量が優先され、創造性へのインセンティブに欠ける構造となっている点が浮かび上がってきた。今後も、インセンティブと産業組織に着目しつつ、様々な視点から創造的産業をめぐる制度的枠組みについて国際比較分析を行い、都市政策との関連を探っていきたい。
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