Research Abstract |
本年度は,先行研究のサーベイおよび実証分析を中心に当該課題の研究をすすめた. まず,先行研究のサーベイについて,「中小企業論」「ファイナンス」の分野を中心に論文サーベイを行った.創業時の資金調達に関連する論文,特に,株式公開(initial public offering ; IPO)および起業家の個人属性の影響に関する論文をサーベイし,起業家の個人属性と株式公開意欲との関係についての仮説を提唱した. 次に,実証分析について,これまでの研究課題において実施したアンケート調査「我が国スタートアップ企業の経営実態に関する調査」をもとにデータの整理および加工を行った.特に,起業家の個人属性および株式公開意欲に関するデータを整理して基本統計量などを示すことで,わが国起業家の特性を示した.また,起業家の株式公開意欲ごとに企業の成長性を示し,株式公開意欲をもつ起業家の経営する企業ほど成長性が高いことを示した. 続いて,データセットとモデルを整理して回帰モデルを推定することで,起業家の個人属性が株式公開意欲に与える影響を検証した.推定結果から,創業時に流動性制約を受けていた起業家の株式公開意欲は強く,また,研究開発志向の強い企業ほど株式公開意欲は強い傾向が示された.また,VCの支援を受けている企業やIT関連企業は,株式公開をめざす傾向が示された. 加えて,それぞれの資金調達先の違いによるスタートアップ企業のパフォーマンスの違いについても検証した.その結果,創業時に個人投資家やVCから資金調達した企業ほど成長性が高い傾向がみられたが,銀行から資金調達した企業についてはそのような傾向がみられなかった.これらの結果から,金融機関および投資家によって,スタートアップ企業への融資・投資の目的,および企業のモニタリング機能に違いがあることが示唆される. これらの実証分析の結果は,既にワーキングペーパーとしてまとめており,査読審査付きジャーナルに投稿し,レフリーからコメントをいただいている.次年度の研究では,これらのコメントなどをもとに,さらなる論文の改善をめざすことにある.残された課題として,まず,どのような理由で株式公開を含めた資金調達が必要になるかについての理論的な背景について十分に論じてみたい.また,そもそもどのような起業家が創業時に流動性制約に直面しやすいかについて十分な検証が行われてないため,この点についてあらたな分析を行ってみる.加えて,次年度は,あらたなデータへのアクセスを試み,さらに精緻化されたデータをもとにした実証分析も試みる予定である.
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