Research Abstract |
本年度は,昨年度の実証分析をもとに,スタートアップ企業を対象として,起業家属性が資金調達に与える影響,加えて,起業家属性が企業パフォーマンスに与える影響を分析した.具体的には,昨年度作成した「起業家の株式公開意欲」および「資金調達先の選択とパフオーマンス」に関する2つの論文の加筆修正を行った.また,新たに「起業家の人的資本と資金制約」に関する研究をすすめ,理論モデルおよび推定方法の検討を行った.先の2つの論文について,前年度に作成したワーキングペーパーに対する同分野の研究者やジャーナルのレフリーからのコメントを参考にしながら更なる研究の改善をはかった. まず,「起業家の株式公開意欲」の研究について,前年度の推定結果から,研究開発志向の強い企業ほど株式公開意欲の高いこと,および起業家の個人属性による違いが示されている.しかし,理論的な背景が十分でないこと,および変数の内生性を考慮した推定を行っていないことが問題点として残ることから,これらの点を考慮した論文の修正および推定方法の改善を試みた.ただし,論文では,起業家の株式公開意欲が従属変数であり,それを質的変数でとらえている.したがって,通常の2段階推定法では適切な推定値が得られないため,質的変数に対応可能な操作変数法を援用した.これらの点で論文を加筆修正を既に終えている. 次に,「資金調達先の選択とパフォーマンス」の研究について,内部資金への依存,資金制約,パフォーマンスとの関係が十分に明示していなかったため,その点についてさらなる分析の改善を試みた.現在,これらの変数間をいかに明示していくかを検討しながら,論文を加筆修正している. さらに,「起業家の人的資本と資金制約」の研究について,既にワーキングペーパーとしてまとめている.この研究は,これまでの先行研究でパフォーマンスに対する人的資本の直接的な効果に注目されがちであったことに対し,これまで十分に明らかにされていない起業家の人的資本の間接効果に焦点をあてた内容となっている.これまでのモデルでは「起業家の人的資本と資金制約との負の相関」が説明できないことを指摘したうえで,この研究では,起業家の人的資本が資金調達に与える間接的な影響を考慮することによって,この相関が説明できることを示している.このような視点から,起業家の人的資本が資金制約に与える影響を示し,人的資本のパフォーマンスに与える間接的な影響を示唆した.今後の研究として,起業家の人的資本が総合的にどのようにパフォーマンスに結びついているかを解明し,加えて,この事実をもとに,資金制約の緩和や起業家教育の視点から,わが国における創業支援政策がどのようにあるべきかに関する政策的な議論へ展開していくことを予定している.
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