2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17530232
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
板谷 淳一 北海道大学, 大学院・経済学研究科, 教授 (20168305)
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Keywords | マルコフ戦略 / 無限期間動学ゲーム / 非線形マルコフ戦略 / 部分ゲーム完全均衡 |
Research Abstract |
現在までの研究の中間報告として、ディスカッションペーパー(北海道大学経済研究科)"A Dynamic Model of Conflict and Cooperation"(大阪大学大学院経済学研究科の三野和雄教授およびパダボーン大学ヴォルフガング・エガート教授との共同論文)を完成させた。現在、それを国際学術雑誌へ投稿するための準備を行っている。その論文の内容は以下のようなものである。 (1)毎期、一定の資源を生産活動(共有の資産あるいは公共財の生産)もしくは他人から資源を強引に奪い取る略奪活動のいずれに配分するモデルを考えた。有限人数の競争相手による無限期間動学ゲームを考えた。このような所有権の確立していない社会おける社会紛争の動学的な発展を考察するためのモデルを構築した。 (2)動学ゲームにおける各プレーヤー(競争相手)の戦略は様々ものが考えられるが、分析を実行可能なものとするために現在の状態変数のみに連続に依存するマルコフ戦略を仮定した。ゲームの均衡は部分ゲーム完全均衡(それを支持する戦略は完全戦略と呼ばれる)を考えた。さらに、戦略が定義される状態空間として、非負の実数空間を考えた。最後の仮定は、定義域を限定する経済学的に合理的な理由がない場合、自然な仮定と思われる。 (3)本モデルの大きな特徴として、線形マルコフ完全戦略だけでなく、非線形マルコフ完全戦略も考察の対象とした。しかし、戦略の定義域を非負の実数空間として考えたため、大域的に定義される部分ゲーム完全均衡戦略は、線形マルコフ完全均衡戦略だけであることが判明した。 (4)(3)の結果より、(1)で想定するような社会紛争モデルの動学的な特性は、この一意的な経路を分析することによってわかる。長期均衡において、生産活動と略奪活動が共存しておこることがわかる。すなわち、部分的な協力(公共財の生産)が起きることがわかる。また、略奪活動が効果的になるほど、また、各プレーヤーが近視眼的になるほど、プレーヤーの人数が増加するほど、共有資産の減価率が大きいほど、略奪活動が激化することがわかった。したがって、長期的にパレート効率的な状況を実現するためには、これらのパラメータを逆方向に動かすような規制を行えるような政府の存在が必要であることを示唆していると解釈できる。 (5)長期均衡およびそれにいたる動学経路が複数(あるいは、均衡が連続体)なるケースが生じるのは、戦略の定義域が何らかの理由で限定された場合であることが確認された。ある特定の定義域のもとでは、線形マルコフ完全戦略がもたらす長期均衡および移行経路よりもパレート効率的に優れている経路が存在することも判明した。しかしながら、このような定義域の限定はやはり偶然にしか起きないと考えるのが妥当であり、そのような経路の実現のためには、やはり政府による何らかの介入が必要であることがわかった。
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