2006 Fiscal Year Annual Research Report
リスク社会と道徳規範-社会と個人を「切る」社会学の可能性についての研究-
Project/Area Number |
17530364
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
三上 剛史 神戸大学, 国際文化学部, 教授 (80157453)
|
Keywords | リスク / 道徳 / 個人と社会 / ポスト近代 / 規範 / 公共性 |
Research Abstract |
本年度は「リスク社会と道徳規範」というテーマをより深める作業に専念した。特に、『社会学評論』から依頼された寄稿論文『「社会的なもの」の純化か終焉か?-<連帯の喪失>と<道徳の迂回>-』において、今回の研究の根本的テーゼの理論的構築を行った。そこでは、U・ベックをはじめとして、現代社会学で大きな問題になっている、「社会的なもの」の終焉とその問い直しについて検討を試みた。また、リスク社会ならびに監視社会の進展、更にはそれを下支えしているネオリベラリズムのグローバルな展開を、M・フーコーの統治性論およびN・ルーマンのシステム論を援用して理論的に整理し、社会と個人が「切れ」てゆく社会の理論化に向けて、一定の基礎を固めることができた。 これは同時に、『現代社会学のすすめ』に収められた論文「ハーバーマスと公共性論の現在」における、H・アレントとJ・ハーバーマスらの公共性論の可能性と限界を整理し、「公共性」がもはや個人と社会の関係を担保しえない概念となりつつあることを示すことでもあった。更には、『新しい社会学のあゆみ』において、M・フーコーの業績を、「規律権力なき監視社会」に向けた統治性論として社会学的に評価し直すことでもあった。 これらの仕事を通じて、これまでの社会理論の核心であった、道徳と公共性概念の「ポスト近代」的可能性を模索し、新しい形で個人と社会を関係付ける(あるいは、関係付けない)理論構成が求められることを明らかにした。 またこれに先立ち、2006年春には、日本社会学史学会大会におけるZ・バウマンをテーマとするシンポジウムにおいて司会を務め、バウマンの道徳理論が持つ現代的インプリケーションについて言及した。 加えて、本年度末にはシンガポール国立大学において研究交流を行い。他民族国家でもある近代的(orポスト近代的)な実験的都市国家であるシンガポールにおいて、どのような形で規範的合意が調達され、いかにしてリスクが回避されているか、言い換えれば、監視社会化の矛盾がいかにしてうまく処理されているかについて、一定の知見を得ることができた。
|
Research Products
(4 results)