2006 Fiscal Year Annual Research Report
「市民社会型資本循環」の基盤としての市民統治公団の実態研究:シアトルの事例に基き
Project/Area Number |
17530384
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Research Institution | Hachinohe University |
Principal Investigator |
前山 総一郎 八戸大学, ビジネス学部, 教授 (80229327)
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Keywords | ローカルガバナンス / ネイバーフッド / 市民社会 / 公団 / シアトル / モノレール / イニシアチブ / 税 |
Research Abstract |
本研究は、「社会にある資金・資本は、地域住民の意向にそった形で公益のために地域住民によってコントロールされ得るのか」を中核コンセプトとする「市民社会型資本循環」研究の一環としてなされたのであるが、とりわけ(1)いかに市民は公益のために公の資金・資本をコントロールし得るのか、(2)市民がそのために体現し得るAuthority(公的団体)としていかなる仕組みが組み立てられえるのか、という点を明らかにしようとするものである。 昨平成17年度の研究成果は、米国においけるレファレンダム(住民表決)とイニシアチブ(住民発案)の発達を後づけ、かつ、それを通じて、地域に密着しての「ローカルイニシアチブ」が「民主的ガバナンス」の有効なツールなってきていることを確認した。平成18年度は、それに基づき、課税イニシアチブとも呼べる「市民主導型課税意向投票」Levy Votingを通して、公共交通機関(モノレール)設置ならびにいわゆる市民立公団の設置と、そのための課税措置が進められた事例を上記(1)、(2)の問いに向けてのベンチマークとして検討した。具体的には、市民主導型課税意向投票の手法を通じて、シアトルモノレールプロジェクト(略称SMP)なる巨大プロジェクトが、「市民主導」(Citizen-initiated)公団として、投票で認可されるという未曾有の事態が進展し、それにより先端的結果とあらたな障害ないし課題が現出したことを、論者自身のインタビュー実施調査データによって示した。 その結果以下の成果が得られた。(1)SMPにあっては、「市民の手による公団」が、イニシアチブにより設置され、かつ同公団が市の助力なしに純粋的に市民評議会により運営されたこと、(2)SMPは、課税イニシアチブ(Levy Voting)を通じて、そのための約1900億円の座財源として「自動車使用税」を56万台の自動車所有者に賦課することに成功し、かつ地域経済にとって1.3%の雇用増、2.12%の売上税増を見込んだこと、(3)他方、限界に関わることとして、「市民の手による公団」のための基盤と手続きは未成熟であり、市による敷設不許可という大きな障害を経ざるをえなかったこと、(4)社会的意味としては本ケースが、「市がゾーニングと予算をもつ」対「特定領域でプランニング権を得た市民公団」の図式を呈していたこと、の4点である。一言で言えば、ローカルイニシアチブ(Levy Voting)が、単なる投票行為・投票コントロールを超えて、いわゆる「市民立公団」として自立した実施主体の設置を可能としたことを意味し、また、それはこの未曾有の状況ゆえに、アメリカでは、「市政府」対「市民自治」にかかわる法務、管轄権問題として衝突が明らかになった瞬間と言え、その意味で本研究は市民社会論において新たな地平を示す先端的研究となったと推察される。
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Research Products
(3 results)