Research Abstract |
スクロール提示とは,限られたスペースに文字を右から左(あるいは下から上)に移動させることで,文章を提示する情報伝達手段を意味する.狭いスペースに多量の情報を提示できるという利便性から,近年では,様々な場所で利用されている.その一方で,こうしたスクロール提示文章を快適に読むための物理変数(例えば,同時に表示可能な文字数,文字の移動速度等)を明らかにした報告は存在しない.そこで,我々は本年度,(1:実験研究)同時に表示可能な文字数(以後,表示文字数)と文字サイズを操作し,最も読みやすいと感じるスクロール速度(以後,快適速度)に調整するよう観察者に求めた実験と,(2:調査研究)街頭に実在するスクロール提示装置の表示文字数およびスクロール速度に関する実地調査を行い,両者の結果を比較検討した. 実験研究の結果,快適速度は,表示文字数とともに増加するが,文字サイズ(視角,0.5°,0.7°)の影響は殆ど受けないことが明らかにされた.各表示文字数における快適速度(一文字分の移動に必要な時間として定義)は,1,3,5,7,10,15表示文字条件でそれぞれ,329,209,184,167,149,134ms/文字であった. 調査研究は,主にJR山手線沿線駅前(渋谷,新宿,池袋等)に設置されたスクロール提示装置を対象とした(n=79).調査の結果,表示文字数とスクロール速度の間には,殆ど相関関係が認められないことが明らかにされた(r=-.20).実験条件に対応する表示文字数におけるスクロール速度の平均値は,表示文字環境1〜3,4〜6,7〜9,10〜12,13以上でそれぞれ,393,355,354,314,324ms/文字であった. 文章の理解に集中するよう求められる実験状況で得られた結果を,自然な状況に存在するスクロール提示装置に適用するためには,今後,文章の内容や読み手の情報処理能力など,様々な変数を考慮した分析を行う必要がある.それでもなお,本研究の結果は,実際のスクロール提示装置設置者が,読み手にとって快適なスクロール提示環境を把握するための基礎的知見になると期待される.
|