Research Abstract |
本年度は,H.ダイアー(Henry Dyer)がお雇い教師の職務を終えて帰国してから取り組んだ活動のうち,1.日本研究,および2.明治政府の帝国財務及工業通信員としての活動(日本の経済社会事情の英国への紹介)をめぐって,考察した。 1については,(1)ダイアーの著作112点を収集し,著作一覧の作成と研究主題の動向分析をとおして,日本研究は晩年に精力的に進められたことを明らかにした。また,(2)研究内容を工学教育,工学研究,教育改革,社会改革,日本研究に大別し,(3)日本研究の背景として,19世紀末から世界における日本関心の高まりと日英協力の進展を指摘した。(4)日本研究の特色として,母国英国との比較のなかでの日本研究,日本近代化における教育(とくに国家的教育制度)の役割に対する着目,日本を教訓にした英国の社会改革の提案という3点を,具体的に明らかにした。 (5)日本研究のなかでも,とくに『大日本・東洋の英国』(1904),『世界政治のなかの日本』(1909)という二大著作の内容の考察,ならびに諸種の新聞・雑誌上での書評の調査・分析をとおして,ダイアーの日本研究の特色と意義について考察を深めた。 2については,(1)同通信員制度を明治34(1901)年11月26日に発案し最適任者としてダイアーを推薦したのは,駐英ロンドン領事・荒川巳次(工部大学校出身)であったこと,(2)ダイアーは明治35年3月に同通信員を委嘱されたことで日本政府を介して多くの日本情報・資料を自在に活用できるようになり,つねに日英両国の動向を観察しつつ分析したこと,(3)日本研究のための主要資料は政府が準備したものであったことと好意的な日本像の形成との関連性,などについて解明した。
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